愛より強い旅


スペインの南端アルメリア、故郷への旅に出たロマン・デュリスとルブナ・アザバルは、所持金をなくし、プラム農場で働くことになる。二人は、仕事の合間を見つけて、プラムを官能的に食べるシーンが、セックス以上にエロチシズムを感じさせる。食べることが、実はきわめてエロティックな行為であることを『愛より強い旅』は見せてくれる。冒頭のパリのマンションの部屋で二人が全裸で音楽を聴いている。このシークエンスでも、ルブナ・アザバルがベッドの上で、アイスクリーム(?)を食べるシーンがあり、食べることがセックスの代替行為として表現される。


さて、一貫してロマの人達と、常に彼らの音楽を通して映画を製作してきたトニー・ガトリフが第57回カンヌ映画祭で監督賞を受賞した『愛より強い旅』(2004)は、パリに住むアルジェリアからの移民ザノ(ロマン・デュリス)が、ある日唐突に恋人ナイマ(ルブナ・アザバル)を誘い、故郷アルジェへの旅に出るところからはじまる。


パリからスペインを経由してモロツコからアルジェにたどり着くまでのロード・ムービーの形式をとっているが、この作品は、監督トニー・ガトリフが自らのルーツをたどるフィルムである。ロマン・デュリス主演では、1997年の『ガッジョ・ディーロ*1以来のコンビとなる。『ガッジョ・ディーロ』では、ロマン・デュリスがロマの音楽を求めてルーマニアに旅する。そこで出会うロマの人々との心暖まる交流は、トニー・ガトリフロマン・デュリスを通してロマの世界を視た作品といえよう。ロマン・デュリスが、出会うローナ・ハートナーはロマの魅力あふれる女性だ。ロマの人々は、民族音楽と舞踊をこよなく愛するきわめて平和的な民族なのだ。ジプシーとして迫害されるロマの悲劇を描きながらも、ラスト主人公が求めていた音楽テープを墓に埋葬することで、ロマに同化する。個人的には『ガッジョ・ディーロ』の情熱的な民族音楽とダンスと、放浪の民族としてのロマを描いたこの作品がすきだ。ロマの老人を演じたイジドール・サーバンは、本物のロマ音楽家で、その圧倒的な存在感は観るものを素直に肯定させる力があった。


ガッジョ・ディーロ/オリジナル・サウンドトラック

ガッジョ・ディーロ/オリジナル・サウンドトラック


『愛より強い旅』の公式サイト