ALWAYS 三丁目の夕日
映画の舞台となる昭和33年とは、戦後13年目で、中世から続いてきた日本人の生活スタイルが高度成長期の入り口になり、大きく変容し始める年。また東京タワーが完成した年でもある。
昔は良かったという単純な話で終わりになっている、と書いてしまえば見もふたもない。鈴木オート自動車修理工場を経営する鈴木夫妻(堤真一と薬師丸ひろ子)のもとへ、集団就職で上京した六子(掘北真希)がやってくる。鈴木家の前には崩れかけた駄菓子屋がある。そこでは、作家志望でうだつの上がらない茶川龍之介(吉岡秀隆)が、少年小説を生活のために書いている。
この映画の優れたところは、二人の子役にある。鈴木家の長男役の一平(小清水一揮)と、捨子として飲み屋の女将・小雪からあずかった吉行淳之介(須賀健太)の存在はこの映画の要となっており、この二人のこどもの表情は、まさしく1958年=昭和33年そのものである。
血のつながらない子どもを、いやいや引き受けた茶川は、冒険小説のアイデアを、淳之介のノートから得る。次第に二人は、お互いの存在を必要とする。実の父・川渕康成(小日向文世)の登場。どこかで観た光景。ありふれた物語。にもかかわらず、茶川と淳之介の結びつきが深いゆえの感銘。
茶川龍之介や川渕康成、あるいは、鈴木則文(東映の映画監督)や、六子(東北の農家の六番目の娘)などの命名は、監督・脚本の山崎貢*1によるものではなく、漫画原作の西岸良平によるパロディだろう。
昭和33年に公開された小津安二郎『彼岸花』や成瀬巳喜男の『杏っ子』を観れば、当時の風景がよ分かる。敢えて、昭和33年を復元する必要性があるのだろうか。どうしても、そう思ってしまう。
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『ALWAYS 三丁目の夕日』は、当時の雰囲気を実に見事に復元している。昭和33年という特別な年、三種の神器(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)と、プロレスにおける力道山の活躍。過剰な思い入れは、昭和33年を輝く時代として、観るものに写る。映像技術としてここまで可能となったことを観せることと、映画としての出来とは別物である。なさぬ親子の別離のお話は、とりわけ新鮮というわけではない。では、何が名状しがたい感動をもたらすのだろうか。テレビが来る日は、小津安二郎の『お早よう』(1959)*2で観ることができるし、ありふれた人情話に収まっている。
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唐突だが、小林秀雄がいう科学批判、「精神と身体は並行するという仮説」に基づいて科学は進歩している。しかし、人間の精神・人格は進歩しているのか。むしろ「精神の荒廃」がみられるではないか。まさしく、その小林秀雄のことばを裏付けるフィルムとして、『ALWAYS 三丁目の夕日』を観ることが可能だ。しかし、映画の評価としては、「良くできた人情話」、それ以上でも以下でもない。
*1:田中貢と誤記していたが、田中氏は私の知人で、山崎と表記すべきところを無意識に知人の田中氏の名前を誤記してしまった。田中氏にはお詫びしたい。