電車男


書籍版『電車男』も読んでいないし、リアルタイムで「2ちゃんねる」のスレを読んでもいない。従って、一本の映画として観た感想にすぎないことを、最初に断っておきたい。


秋葉系オタク22歳の山田孝之が、電車の中で女性たちに絡む大杉漣から、中谷美紀を助けたことから、ネット掲示板上でドラマが展開して行く。掲示板上で、多くの仲間に助けられ、初デートから愛の告白までを、ラヴストーリーとして、映像化した。通常の小説とは異なって、掲示板の背後がブラック・ボックスとなっている。見えない世界を、いかに見せるか。基本的には、戯曲の映画化と思えばよい。


巨大掲示板2ちゃんねる」上で起きた実話という売り。実話かどうかはともかく、純情男が、大人のお嬢さんとの関係を築いて行くことなど、きわめて困難な時代に、ありえない「おとぎ話」。だからこそ、単行本化されるとベストセラーになり、映画は純愛ブームでヒットしそうな気配がある。


映画版から、この夢のような寓話を読み解くと、「コミュニケーション」を巡るヴァーチャルな世界からリアルな世界への移行の物語仕立てになっている。


山田孝之が典型的なオタクファッションから、センスあるデザイナー系ファッションに変貌する。オタクとしては、服装にお金を使うよりも、フィギュアやPC関連に使いたいだろう。本好きが、本を買うためにあまり服装のセンスが良くないのと似ている。


この映画のよさは、一言にしていえば、純粋な人々の支援を受けた純粋な男女の恋愛が成就するという「絵」に描いたようなところであろう。現実には、ほとんどありえない設定だ。だからこそ、フツーの人々にとって、新鮮に見える。


まあ、先が見えない不安な時代に、こんな夢のような話があってもいいではないか。映画文法だの、リアリズムだの、カット割などは気にしないこと。自然、そう自然に見えることが大事なのだ、この種のフィルムには。


二人を応援する役として、看護婦に国仲涼子エルメスの友人で西田尚美、ベノアの店員として田中美里が、出演しているのも嬉しい。『電車男』にふさわしく、応援部隊が駅のホームの反対側での声援が「絵」になっている。もちろん、力作だの、傑作だのそんな評価とは無縁の映画に徹しているところがいさぎよい。


秋葉原が、映画の舞台になること自体も貴重だ。いわゆるヲタクの人たちは、原作とはまったく別の作品だとして、批判が出ることが予想される。まあ、しかし、そんなことはどうでもよろしい。映画は映画として観ること。


書籍の発売、ベストセラー化から映画化までの時間がない。超特急で仕上げた、これが初監督、村上正典はTVドラマの演出経験のみで、普通は一年間くらいかけて作る映画を、多分脚色からいっても、数ヶ月で仕上げたことになり、よく健闘したといいたい。それと、主演の山田孝之クンの演技は、評価していいだろう。エルメス役の中谷美紀は、無難にこなしていたというところか。


色々、不自然なところや瑕疵があっても、気にしない。爽やかな気分で映画館を出よう。


『電車男』公式ホームページ


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