理由
ドキュメンタリー手法、それも登場人物にインタビューしてゆき、時々、マイクが映ったりもするが、それは意図的に見せているわけで、107人の人物を描き分けるには、最適の方法だった。原作を読んでいないので、まったくの先入観なく観ることができた。
この映画には、主役がいない。映像と語られる「ことば」がすべてであり、ミステリーであるが、殺人シーンもなく、あくまで大林ワールドの優しさに包まれている。
大林宣彦監督作品『理由』は、「宮部みゆき理由:The Movie」というタイトルで始まる。「The Movie」だの「A Movie」だのを、タイトルに含めるのが大林流。
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登場人物を列挙するだけで、圧倒されるキャストだ。監督自身が述べているように、このキャストで映画10本分の製作が可能だろう。
とりわけ、印象に残った俳優は、マンションの管理人・岸部一徳。この人は、現在の日本映画の脇役では欠かせない存在であろう。冒頭、交番にかけつける「片倉ハウス」の娘・寺島咲、その父・柄本明、母・渡辺えり子。恋人・加瀬亮に逃げられ赤ん坊をかかえた姉・伊藤歩、その弟・細山田隆人、父・ベンガル、母・左時子、祖父・立川談志。事件があったマンション2025室の本来の住人、山田辰夫、妻・風吹ジュン、息子・厚木拓郎、姉で学習塾の経営者・赤座美代子。事件後、失踪する男・勝野洋、その母・南田洋子、亡父・片岡鶴太郎、長男・宮崎将、長女・宮崎あおい。そのほか、大林映画の常連・峰岸徹、入江若葉、根岸季衣や、意外なキャストなど、俳優たちの素顔(ノーメイク)をみるだけでも、この映画が群像劇でありながら、そこを突き抜けている傑出したフィルムになっていることが分かる。
ストーリーは、書くまでもあるまい。直木賞受賞作で、大ベストセラー宮部みゆき『理由』を読んでいる人が多いだろうし、映画は原作を踏まえて、スタイルが大林作品になっていることが前提であれば、尾道三部作、新・尾道三部作に代表される作品とは無縁ではありえない。
都会の高層マンションが舞台でありながら、多くは、下町のノスタルジックな背景のもとで、インタビューが反復される。それぞれの人物は、インタビュー現在の自分と本人が語る過去のシーンで、構成されて行く。キャメラの背後には、関係者に取材する女性作家と、彼女を含めて、これが映画であるというフィクションとしての入れ子式構造の見事さ。
高層マンションと、対照的な下町風景や、松江市など田舎のロケーションもいい。戦後の高度成長とその後のバブル期は、何をもたらしたかを、大林流のノスタルジックなやさしさで満たされながらも、何が問題であるかをさりげなく提起している傑作である。
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