Shall we Dance ?
街角のTV画面に映し出されたフレッド・アステアとシド・チャリシの踊るシーン(『バンド・ワゴン』)を見つめるダンス教室の人たち。そう、アメリカ映画は、伝統的にミュージカルを楽しんで来た国だった。RKO時代のアステア&ロジャースものや、MGMのジーン・ケリーとフレッド・アステアは、ミュージカルの二大看板だった。「Shall we Dance 」とは、マーク・サンドリッチ監督『踊らん哉』(1937)の原題なのだ。フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのコンビ7本目の映画であり、二人がローラースケートを履いて踊るシーンがある。
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周防正行の『Shall we ダンス ?』(1986)のリメイク、ピーター・チェルソム監督『Shall we Dance ?』(2004)は、日本とアメリカの文化の差異に注目しながら観るといい。観終わって心が暖かくなる映画であることに変わりはないのだから。
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リメイク版はおおむね、周防原作に忠実につくられているが、役所広司役をあのダンディなリチャード・ギアが、草刈民代をラテン系の情熱的なジェニファー・ロペスが演じている。極めつけは、専業主婦の穏やかな原日出子を、スーザン・サランドンがキャリアウーマンになっているところ、妻であり母である魅力的な女性として前面に出している点に大きな違いがある。
遺言書作成の弁護士リチャード・ギアと、高級デパートに勤めるスーザン・サランドン夫妻は、郊外に家をもち、二人の子どもに恵まれ、どこから見ても絵に描いたような幸福な家族である。それでも、リチャード・ギアは、心の中に空白を抱えている。冒頭からの主人公は、眼はうつろで、職場と家庭を電車で往復する疲れた中年サラリーマンになっている。電車の窓ごしに見えるダンス教室のマドンナにふっと、心惹かれても不思議はない。思い切って電車を降りて、ダンス教室に入り、草村礼子=アニタ・ジレット先生にダンスの初歩から教わりなふがらも、ジェニファー・ロペスが気にかかる。
その後の物語の展開は変わらないので、オリジナル版と異なるところに注目してみよう。もっとも大きな違いは、タキシードを着たチャード・ギアが、妻の勤務するデパートへバラの花一本を持って行くシーン。日本では、とても恥ずかしくて出来ないことも、とくに不自然な様子もなく、妻スーザン・サランドンに「Shall we Dance?」と誘いかける。職場の仲間たちも、この二人の姿に感動し涙ぐむ。ぐっとくるシークェンスだ。
竹中直人役のスタンリー・トゥッチは、スピルバーグ『ターミナル』の嫌味な男からダンス好きのシャイな弁護士へ、ややオーヴァーアクション気味だが、日常と非日常の切り替えの見事さと、ダンスシーンの怪演ぶりはまさに適役だった。渡辺えり子のリサ・アン・ウォルターも豊満な肢体を見せている。
オリジナルもリメイク版も、ハートウォーミングな映画であり、観終わって味わう至福感に違いはない。それよりも、周防正行は、オリジナル版から10年近く映画を撮っていないことになる。若手に、類似パターンの映画をまかせるのもいいが、そろそろ、一本欲しいところである。
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