血と骨


崔洋一監督、ビートたけし主演『血と骨』(2004)を観る。在日一世の戦後混乱期を生きた金俊平(ビートたけし)の半生を描くかたちで、在日問題、家族とはなにか、親子とは何かを問いかける問題作。


主演が、ビートたけしなので、たけしの映画かと思うけれど、この作品はあくまで崔洋一の世界になっている。


映画は、息子・金正雄(金井浩文、好演)の語りで進捗する。父は済州島から大阪に夢を託して船でやってくる。1920年代、工業的繁栄を謳歌していた大阪へ。俊平は、強引に李英姫(鈴木京香)を犯し妻とする。子供を二人残して、戦時中は行方不明となる。戦後、帰ってきた俊平は、己の欲望と家族をも犠牲にするエゴイズムによって、強圧的に支配する男になっていた。


戦中が空白になっているのは、意図的にそのように設定されたと考えられ、背後に戦争体験があることを敢えて、描いていない。俊平は愛人を自宅の眼と鼻の先に住まわせ、欲望のままにふるまう。かまぼこ工場を経営し、職人たちを容赦なくこき使う。かまぼこで儲けた金は、高利貸しとして更に、金儲けをたくらむ。


俊平は情け容赦なく妻にあたり、反抗する息子は家出し、娘(田畑智子)は不本意な結婚を強いられる。何がこの男を、いわば破壊のエネルギーに向かわせるのか、時代と環境のせいとは言い切れないような気がする。男の内面が見えないだけ、不気味であるが、一種の爽快さを感じられるのも事実だ。


愛人が脳腫瘍で倒れると、黙々と看護し、たらいで彼女を体を洗うシーンには、優しさすら感じられる。全編、暴力と破壊と性がエネルギッシュに描かれるなかで、唯一穏やかなシーンである。俊平自身が半身不随となってもステッキ片手に集金行動するパターンは変わらない。


ここまで徹底したエゴイストとして主人公を設定されると、ある意味で人間としての極限の姿を見せているといえるのかも知れない。その点、主役のビートたけしは、見事に俊平になりきっている。時々みせる無邪気な笑顔すら恐怖を感じさせるその存在に、観る者は圧倒される。共感を覚えるかあるいは吐き気をもよおすか、映像は容赦ない。


人間は永遠に同じパターンで活きることが出来ない。「老い」や「病」により人生の終末を迎えることだけは避けることができない。俊平が迎える末期は、哀れなのか、あるいは至福なのか、それは観る者にゆだねられる。


血と骨』が、賛否両論に別れるとはおもうけれど、傑作であることは間違いない。生き方や家族について、これほど観る者に課題を突きつけてくる映画はここ最近なかった。戦後大阪の朝鮮人社会を描きながらも、日本人にとっての根源的問題を描いているからだ。脇役の一人ひとりが輝いているのも、崔監督の目配りの巧みさであろう。戦後の風景や、色彩感覚も冴えている。



血と骨http://www.chitohone.jp/


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