笑の大学


笑の大学 スペシャル・エディション [DVD]

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三谷幸喜脚本・演出のラジオ劇、舞台劇ですでに定評のある『笑の大學』の映画化。監督は、三谷が指名した星護。検閲官と座付き作家の二人による密室の芝居であり、映画化の困難は予想できる。


映画版『笑の大學』は、検閲官を役所広司が、座付き作家を稲垣吾郎が演じている。時代は、昭和15年。検閲が厳しくなっているという背景がある。生真面目な検閲官は、「笑の大學」の座付き作家が提出した喜劇の脚本を検閲する。


稲垣吾郎は、<笑い>に作家的使命を帯びた男、すなわち三谷幸喜の分身でもある。稲垣の提出した台本を、外国を舞台としていることや、登場人物が外国人名であるところから、役所広司が書き直しを命じる。「ロミオとジュリエット」のパロディを、「金色夜叉」の貫一・お宮の芝居に書き直すと、今度は別の点で文句をつける。その繰り返しが、延々と続き、その都度、稲垣吾郎は苦しみながら台本を変更する。しかし、直された台本には、役所広司の意見が入っており、前回よりも面白くなって行くという皮肉な結果なる。このあたりの台詞のやりとりに三谷幸喜の才気が含まれており、場内大爆笑の渦につつまれる。たしかに、面白い。


問題は、どのような映像になるかであろう。二人が対面した画面、一人ひとりのアップをカットバックによってつなぐ、基本的には、この二つしかないわけだが、浅草の劇場の賑わいを挿入したり、役所広司が、「笑の大學」の芝居をためらいながらも観に行く光景は、映画ならではのものがある。検閲官は、次第に作家の世界に接近し、いつのまにか共同で台本をつくることになってしまう。ところが、完成した脚本を前に、戦時であることからくる「赤紙」。


さて、そこからが問題なのだ。あまりにも、情に流されて役所広司の内面の変化までを映像で示す方法は如何なものかと考えさせられる。あくまで、「笑い」に徹する作家と検閲官のことばのやり取り=勝負であったものが、戦争という非条理な事態が、結末を左右してしまうのは、三谷作品としてはどうなのだろうか。結末の不満を述べてもしかたないのだが、手放しで賞賛できる作品ではない。同じ三谷脚本舞台劇の映画『12人の優しい日本人』の完成度に達していないといわざるをえない。


ラストシーンはおそらく無人の廊下になるだろうという予測も的中してしまった。不条理な喜劇に徹してこそ、喜劇の本質的な良さに昇華できるのではないだろうか。人情劇で終わる結末では、あまりに凡庸すぎるのだ。


『笑いの大学』
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