LOVERS


LOVERS [DVD]

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チャン・イーモウの『LOVERS(十面埋伏)』(2004)を観てきた。前作『HERO(英雄)』(2002)が、秦の始皇帝暗殺にまつわる刺客を、鮮やかな色彩で描いた、しかも、究極のワーヤーアクションを見せる手法は、見事なできばえであった。


今回の『LOVERS』は時代が唐に移され、登場人物もより下層の朝廷の役人と、朝廷に反抗する組織「飛刀門」の戦いのなかで生まれる至上の愛が、体を張ったアクションで描かれる。台湾の金城武、香港アンディ・ラウ、それに『初恋のきた道』(2000)以後のチャン・イーモウ作品のメイン女優チャン・ツィイー。この三人の恋の葛藤が、武侠の形式を借りた主題といえよう。


武侠映画は、大儀に命を賭けるのが原則であり、『HERO』もその路線の上にあった。ところが、『LOVERS』は大儀と愛が対等におかれ、愛が、組織の儀を凌駕するという斬新な解釈に持ち込まれる。


ストーリーに、やや不自然なところがあり、それも、「愛」の確認上必要なのかも知れないが、武侠と愛が融合したフィルムとして、評価に値する。また、盲目のチャン・ツィイーが、アンディ・ラウの前で踊るシークェンスは美しい。チャン・ツィイーの舞踊とアクションを見るだけで十分満足できる。


ただ、私自身の好みからいえば、『秋菊の物語』(1992)からのリアリズム路線、とくに、『あの子を探して』(1999)や『初恋のきた道』のチャン・イーモウに、彼の持ち味があるように思う。正直にいって『HERO』を撮ることに、疑問をすら抱いたものだが、出来上がった作品は、チャン・イーモウの守備範囲の広さを知らされた。


『HERO』『LOVERS』の娯楽路線も決して悪くはないのだが、歴史のみに素材を求めるのではなく、近現代を捉える方向に回帰して欲しい。ハリウッド映画は、このところ加速度的に見世物的要素が強くなってきている。アジア映画は、シナリオや演技や本物のアクションを見せる方向で、ハリウッドに対抗すべきだと思う。


チャン・イーモウは、ハリウッドに対抗できる数少ない監督なのだから。