ニワトリはハダシだ


森崎東監督『ニワトリはハダシだ』、映画の舞台は舞鶴舞鶴とは、敗戦後大陸からの引き揚げ者を迎える港。あの「岸壁の母」の場所。また、原因不明で爆破沈没した浮島丸事件*1の港でもある。


別居中の夫婦、海に突き落とされた原田芳雄倍賞美津子が並んで、話すシーンがある。「何人だろうが構へん、ニワトリぁハダシや!・・・憶えてるか?一緒になる約束した晩、チョンでも構へんのか聞いたうちに答えたあんたの返事や」背後で、祖母(李麗仙)と孫娘が「天然の美」を唄っている。「ニワトリぁハダシ、ええ文句や、バタバタせんとドーンと構えときなはれ」倍賞美津子は、寒さで震える原田芳雄の体を、スカートで拭きながら夫を励ます忘れがたい台詞と光景である。
在日二世の女性を演じる倍賞美津子は、このシーンと青山真治が記している「包丁二刀流を構えた瞬間」が、凄く、美しいまでにかっこいい!


知的障害者を正面から扱った映画は少ない。『ニワトリはハダシだ』は、「知的障害者も持つ子を見せて回りたい」という母親たちの意向を受けて、真正面から、いわばタブーとされる世界を描いている。


知的障害を持つサム(浜上竜也)は、数字の記憶は抜群に優れている。サムが、盗難車・ベンツのナンバーとその車に残されていた検事(岸部一徳)の裏帳簿の数字を意味も知らず憶えてしまったがために、事件に巻き込まれる。


サムは、父親の原田芳雄と二人で暮らしている。母・倍賞美津子と妹は祖母のもとにいる。養護学校の先生・肘井美佳(映画初出演、好演・好印象)が、サムを守るために、父である警部(石橋蓮司)との軋轢や葛藤を克服し成長して行く。彼女の父と離婚する母(余貴美子)への思いなどが交錯しながら、物語は二転・三転し、はらはらドキドキしながらも、警察組織や検察庁の裏金暴露(北海道県警や福岡県警、愛媛県警でおきたような告発を想起させる)問題を絡ませ、日本社会を底辺から描く、ハードボイルド・コメディに仕上がっている。


下っ端刑事役の加瀬亮は、『誰も知らない』『茶の味』『パッチギ!』などに脇役としていい味を打している若手注目株。刑事告発する警部に柄本明、威圧的で権力むきだしの刑事塩見三省、ヤクザの親分に、笑福亭松之助など、それに上記の名脇役岸部一徳石橋蓮司の起用など、森崎東ならではのセンスあるキャスティングの妙も堪能したい。


権力構造への挑戦であり、在日問題を問う映画であり、知的障害者たちの存在を前面に出すなど、現代社会が抱える問題を提起し続ける作風は変わらない。


男はつらいよ フーテンの寅〈シリーズ第3作〉 [DVD]

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森崎東は、山田洋次渥美清の『男はつらいよ』シリーズ第三作『男はつらいよフーテンの寅』の監督であり、シリーズでは異色(過激)だったためか、四作目からは脚本からはずれている。


森崎東監督の御年、喜寿を迎えられたとの由、それにしては映画は若々しい。
ニワトリはハダシだ』は、文句なしの傑作だ。


『ニワトリはハダシだ』公式ホームページから

娯楽も芸術も、古典も現代も、創造も破壊も、民族も個人も、宴会も孤独も、左も右も、愛情も憎しみも、とにかくすべてがキャメラの前で平等に運動=疾走に還元されることを〈真の映画〉と呼ぶとしたら、『ニワトリはハダシだ』こそ、その名に値す21世紀最初の、そして唯一の日本映画だ、と断言します。倍賞美津子氏が包丁二刀流を構えた瞬間、背中に電撃が走り、僕は心の底から号泣しました。あの瞬間、『ニワトリはハダシだ』はあれほど好きだった『党宣言』を超えてしまった。しかし、ただただああいう経験がしたいからこそ、僕は映画を見続けてるんです。とくに森崎映画を!(青山真治

エンディング・ロールに宇崎竜童の主題歌「生きてるうちが花なんだぜ」が流れる。これは、『党宣言』の続編的な意味を持つことを示している。


2003 RYUDO UZAKI NEW SONGS FOR CD THE WAY HOME~途上にて~

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頭は一つずつ配給されている

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森崎東監督作品*2

*1:1945年8月24日、多数の朝鮮への帰国者が乗っていた。549名の死者が出た。このとき生き延びて在日として日本で暮らしている人たちがいる。李麗仙の役もその一人として設定されている。

*2:asin:B00005G2GV,asin:B00005G2BY,asin:B00005G2BZ,asin:B00005G2C0,asin:B00005G2C1,asin:B00005G2BX