ラ・トゥール


芸術新潮 2005年 03月号

芸術新潮 2005年 03月号

表紙は「ゆれる炎のあるマグダラのマリア


芸術新潮』2005年3月号で「ラ・トゥール」の特集が組まれている。
また 、ジャン=ピエール・キュザン/ディミトリ・サルモン著・高橋 明也監修・遠藤 ゆかり訳『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 再発見された神秘の画家』(創元社、「知の再発見」双書)が刊行され、やっと私たちも、ラ・トゥール(1593〜1652)の絵画を普通に観ることができるようになった。


ジョルジュ・ド・ラ・トゥール―再発見された神秘の画家 (「知の再発見」双書 (121))

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール―再発見された神秘の画家 (「知の再発見」双書 (121))


『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール』は、20世紀になってラ・トゥールが発見され、真贋の鑑定がされて行く過程そのものが、きわめてスリリングであり、発見の歴史がラ・トゥール評価の高まりに連動していることが記述される。本書は、画家論ではなく、発見の歴史そのものを叙述している点で、ユニークな紹介本といえよう。


オランダのフェルメールに比肩されるラ・トゥールについては、その生涯や作品についても、全てが明らかになっているわけでない。今後も、新たなラ・トゥールが発見されるかも知れない。


ろうそくの光を中心にした、光と影の絵画は、一見カラヴァッジオを想起させるけれど、ラ・トゥールにはカラヴァジオのような演劇性はない。
ろうそくの光で浮かび上がる「マグダラのマリア」4作の静謐な美しさに魅了される。
「ゆれる炎のあるマグダラのマリア」「鏡の前のマグダラのマリア
ふたつの炎のあるマグダラのマリア」「灯火の前のマグダラのマリア」いずれも、私にはラ・トゥールの最高傑作に思える。(絵画の素人による独断と偏見!)


庶民的風貌の宗教画、現代に通じるリアリズム、主題のあいまいさなど、作品のなかにいくつも謎が仕掛けられている。見ることの恣意性を許容する絵画の牽引力を感じさせる。とりわけ、夜の作品系譜が素晴らしい。


マグダラのマリア」のほかでは、「蚤をとる女」のリアリティに驚く。
大工の聖ヨセフ」は、少年イエスと父ヨセフを間近に描いた類例のない作品。
イレネに介抱される聖セバスティアヌス」は、カラヴァッジオの「キリストの埋葬」を連想させるけれど、静謐さにおいて、ラ・トゥールの審美性が勝るだろう。「キリストの埋葬」の過剰な演劇性のみが際立つ作品とは、似て非なる作品であることが良く分かる。


もちろん、昼の系譜の「ダイヤのエースを持ついかさま師」「女占い師」などの眼をみはる巧さにも圧倒される。「芸術新潮」で「いけずな眼」と形容される女性の眼の表情のおかしさ。


現在ラ・トゥールの真作と鑑定されている作品は40点あまりときわめて少ない。
ラ・トゥールの真の評価は、これからなのだ。
誰もが、彼の作品を白紙でみつめること。
解説にまどわされないこと。
自分の眼で観ること。



ラ・トゥールの絵画


国立西洋美術館では、2005年3月8日から5月29日まで、
「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール〜光と闇の世界」展が開催される。