ヒロシマ
広島に先週一週間ほど出張で滞在していた。仕事の合間に、原爆ドームや平和記念公園などを散策しながら、吉田喜重監督の『鏡の女たち』を想起していた。
岡田茉莉子、田中好子、一色紗英の三人の女性が、同じ方向を見つめる構図が印象深い。いわば反メロドラマのスタイル。
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原爆による被爆者、すなわち被害者としての女性。母と記憶を喪失した娘、そして孫娘の三人が、敗戦を象徴する広島で邂逅する。広島とは、邂逅あるいは遭遇する場として戦後60年間をとおして原爆という戦争犯罪を露呈させてきた。広島ではメロドラマは成立しがたい。
吉田喜重は、反=小津安二郎の位置で『ろくでなし』を撮り映画人生をスタートさせた。
そして気づいてみれば『鏡の女たち』で、小津安二郎に同化している。交錯しない視線こそ小津的世界にほかならない。ヒロシマでは、大江健三郎や原民喜が引用されるべかも知れない。しかし、今は、吉田喜重の映画人生が気になった。いずれ19本の映画から吉田喜重について語るときがくるだろうが、いまはその準備ができていない。
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さらに広島からは、井上ひさし原作・黒木和雄監督の『父と暮らせば』や、アラン・レネの『二十四時間の情事(Hiroshima,mon amour)』(1959、仏/日)などの映画作品を連想することも可能だ。
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広島市には、映像文化ライブラリーがある。ここでは、定期的にライブラリー所蔵の日本映画が上映されている。上映時間の関係で観ることができなかったが、場所は確認することができた。この期間には、『乳母車』『鰯雲』『お早よう』『陽のあたる坂道』『私は二歳』などが日替わり上映されていた。
広島では、「サロンシネマ」と「シネツイン」という系列の四館の映画館があり、おそらく日本ではもっとも座り心地の良い座席を持つ映画館である。今回も「サロンシネマ」にて『シルヴィア』(Sylvia, 2003, 英)を観たので、このフィルムについて近々書いておきたい。
広島市内は、市内電車が便利で市内は均一料金150円と安く、何度か乗ってみた。八丁堀電停近くのA古書店に寄ると、なんと○○大学旧蔵の図書が、ラベルが貼付されたまま販売されていた。除籍済みの押印があったけれど、買うのがためらわれる。読まれた形跡のない専門書を除籍するとは、どのような理由なのだろうか。
被爆国として、世界で唯一であることの意味は重い。広島では、平和記念公園以外の場所では、もはや被爆地のイメージはほとんどない。
人口120万都市、広島市。原爆ドームの北側には広島市民球場。現在では、広島東洋カープ、そしてサッカーJリーグのサンフレッチェ広島が「広島」を代表しているのかも知れない。急いでつけ加えておくと「広島風お好み焼き」。私も滞在中、二回食べたがまずまずの味だったが、お好み焼きは関西風がいい。