フランソワ・トリュフォー


山田宏一フランソワ・トリュフォーの映画誌』(平凡社)を読了。山田氏は、すでに『フランソワ・トリュフォー映画読本』や『トリュフォー、ある映画的人生』など、トリュフォーに関する本を数冊出している。今回の『映画誌』は、映画教室での講演をもとに、加筆したトリュフォー入門書とでもいうべき書物。


フランソワ・トリュフォー映画読本

フランソワ・トリュフォー映画読本


トリュフォーがいかに映画を愛していたか、また、先行する映画作家たちから影響を受けながら、自らの世界を構築していったかは、よく語られるところである。『フランソワ・トリュフォーの映画誌』は、先行する作家のフィルムからの引用や、作家へのオマージュを捧げているシーンなどを解説している。


目次から拾ってみると、ロベルト・ロッセリーニジャン・コクトージャン・ヴィゴオーソン・ウェルズマックス・オフュルスニコラス・レイチャップリンハワード・ホークスヒッチコックフリッツ・ラングルイス・ブニュエルジャック・タチジャン・ルノワール、D.W.グリフィス、など、書いているだけで、一種の興奮を覚えるほど、映画的記憶に連なる名前だ。


各章は、影響を受けた監督たちの映画のシーンを具体的に示しながら、トリュフォーの映画にどのように、反映されているかを細かく、例証した本になっている。その点で、入門書といいながら、上記の監督たちに関する最低限の知識を持っていることで、より内容が分かる仕掛けだ。


フランソワ・トリュフォー(1932〜1984)は、そのほとんどが恋愛映画であり、女性への賛美を捧げている。ビデオやDVDで、すべての作品を観ることのできる幸せを感じながら、あらためて、この映画小僧であり、あえて巨匠になることを拒否した、映画のための映画作家フランソワ・トリュフォーを、見直す時期になっている。いつの間にか、他界後、20年が過ぎてしまった。


山田宏一氏による『トリュフォー遺稿集』や『トリュフォー書簡集』の翻訳本も近々、刊行される予定。トリュフォーの再評価、スクリーンでのレトロスペクティヴを期待したい。