目白雑録


目白雑録 (ひびのあれこれ)

目白雑録 (ひびのあれこれ)


金井美恵子『目白雑録(ひびのあれこれ)』(朝日新聞社)。朝日新聞社のPR誌『一冊の本』に連載されたエッセイ。金井さんは、大岡昇平の『成城だより』のようなものを意図してタイトルをつけているようだ。でも、内容は、森茉莉の『ベスト・オブ・ドッキリチャンネル』(ちくま文庫*1を彷彿させる。


金井さんの小説は、『文章教室』や『恋愛太平記』などを読み始めたが、最後まで読了ができない。ワンセンテンスが長く、いったい何がいいたいのか、よく分からない。多分「頭が悪いせい」と金井さんは云うだろう。極端な例で恐縮だが、埴谷雄高氏の『死霊』は抵抗なく読むことができたことを付言しておきたい。さらに言えば、金井さんの小説は、文庫化された時点でなぜか購入してしまうのだ。本を購入させる牽引力がある不思議な作家である。

文章教室 (河出文庫―文芸コレクション)

文章教室 (河出文庫―文芸コレクション)

恋愛太平記〈1〉

恋愛太平記〈1〉

恋愛太平記〈2〉

恋愛太平記〈2〉


「映画雑録」の章のみは違和感なく読むことができたが、他の文章には毒気が強く、特定の作家なり批評家への攻撃的な批判が多く、うんざりさせられた。蓮實ファミリーにいることは周知のとおりで、島田雅彦加藤典洋へは、とりわけ執拗で手厳しい。


文壇仲間内での論争になど、何の関心もない者にとって、この人はどういうスタンスで、怒りをぶつけているのだろうか、疑問がわいてくる。文学作品の評価など、100年後にゆだねておけばいいのだ。


それでも、金井さんの本を読むことに一種の快楽を覚えてしまうのはどういうわけだろうか。映画への造詣が深く、映画に関するエッセイは面白い。とりわけ『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』や『愉しみはTVの彼方に』(中央公論*2は、愉しく読ませていただいた。



はっきり言わせてもらえば、小説以外は、文壇内部の憂さ晴らしの『目白雑録』ではなく、映画評論を書いてもらいたい。特に、『季刊 リュミエール』に連載していた『ジャン・ルノワール論』が、一冊の本にまとまることを首を長くして待っているのに。