ディパーテッド
アメリカ映画がいまや新しい素材をもとに製作するのではなく、似たようなシリーズものや、リメイク作品の多さにみられるように、脚本のオリジナリティがなくなってきている。2006年度の日本における興行成績が、数十年ぶりに邦画が洋画を凌駕した。たしかに、アメリカ映画に魅力的なフィルムが少なくなつてきているのも事実だ。
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マーティン・スコセッシ監督『ディパーテッド』(The Departed, 2006)も、香港映画『インファナル・アフェア』三部作(拙ブログ2005年9月17日参照)のリメイクだ。トニー・レオンの役をレオナルド・ディカプリオが、アンディ・ラウをマット・デイモンが演じる。警察とマフィアの潜入ものだが、ニューヨークのギャング映画を手がけてきたスコセッシは、この傑作をどのように換骨奪胎し、独自の世界を築きあげるがが見所であった。
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しかし、観る前に懸念したオリジナルの緊張感をどのように、ボストンに置き換えることができるのか、また、ストーリーも変更しているというが、背景となる香港の政治経済の二重性がボストン舞台ではどのように改変されるのか、期待のスコセッシだけに不安がよぎったが、残念ながらそれが的中してしまった。
ディカプリオは、トニー・レオンの憂愁な表情とは対照的な厳しく引き締まった顔で、潜入刑事の苦悩をを表現しているけれど、どうしてもトリー・レオンの柔軟さに及ばない。また、同様にアンディ・ラウの厳格な潜入マフィアは、マット・デイモンではもの足りない。もちろん、怪優ジャック・ニコルソンの存在は、香港映画のマフィアのボス、アンソニー・ウォンよりは、より深い味わいを出しているから、思い切ってジャック・ニコルソンを中心にストーリーを再構成すれば、スコセッシ的世界に変容していただろう。マーティン・シーンをデ・ニーロが演じていればなどと、勝手に想像してしまうのも、不満の故である。
まあ、そうは言っても『インファナル・アフェア』ではなく、『ディパーテッド』について触れておく。二人に共通するカウンセラーの精神科医ビーラ・ファミーガの存在が大きい。M.デイモンと同棲するが、やがてディカプリオにも惹かれていく。残されたマフィアのボスと潜入マフィアの録音が、結末を左右することは、オリジナルもリメイクも同様だが、そのCD(オリジナルではテープ)が精神科医のもとに届けられるところが大きな違い。同棲者デイモンの背信行為を知ることになる。精神科医ビーラが妊娠したことが告げられるが、その父は同棲者ではなく、死者となった刑事ディカプリオであろうことが示唆される。その点で『ディパーテッド』に映画的余韻を感じさせる。
ジャック・ニコルソンの存在感とオーバー気味の演技がすこぶるよろしい。それに、精神科医役のビーラ・ファミーガが、ディカプリオとM.デイモンを繋ぐ役割として、オリジナルを超えている。しかし、映画作品として、リメイクはオリジナルを超えることができないという法則は、本作でも証明されてしまった。
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マーティン・スコセッシのフィルモグラフィの中では、『タクシー・ドライバー』(1976)『レイジング・ブル』(1980)『グッドフェローズ』(1990)のロバート・デ・ニーロとの初期・中期のコンビ作がベスト3となるだろう。
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ディカプリオを起用した『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)『アビエイター』(2004)は、かつてのスコセッシ的雰囲気からはほど遠い。最新作『ディパーテッド』もディカプリオ主演だが、脇役のジャック・ニコルソンに存在感を奪われているのは、上にみたとおりだ。『ディパーテッド』でアカデミー賞最優秀監督賞を初受賞することがあるとすれば、これまでの功績にという解釈になるだろう。
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