ぼくたちの家族

石井裕也脚本・監督『ぼくたちの家族』は、母・原田美枝子の深刻な病気を発端に、夫・長塚京三、長男・妻夫木聡、二男・池松壮亮の家族が、それぞれ問題を抱えながらも、母の病の原因究明と治療に、各々の位置で、母を心から大切に思える家族となる物語であり、ドラマがしっかりと描かれている。


ぼくたちの家族 オリジナル・サウンドトラック

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母・原田美枝子は、いつも家族は一つになることを理想としていた。次第に物忘れがひどくなり、一時は認知症を疑われたが、初診は脳腫瘍という一種のガンで、余命7日と診断される。この時点での、父・長男・次男の方向性はバラバラで、それぞれの思惑の中で、家庭における突然の母不在という非常時に、あたふたする。二男のみが能天気に視える。


たとえ夫婦、親子であっても、子どもが成人した後は、それぞれの事情を抱えている。きれいごとの難病ものではなく、人物造型がいかにも石井監督らしくユニークであり、誰もが直面してもおかしくはない状況へのかかわり方が、きわめて個性的な、いってみれば一筋縄では行かない構成と、リズムが刻まれている。


母は、脳腫瘍の病気のため、無意識に本音を語る。二男を若い時の恋人と間違える。父は、バブル崩壊後、莫大な借金を抱えており、長男には1200万円の保証人になって貰っている。母の病気に、父の威厳は消えはて、おろおろする始末。


長男は結婚していて、妻は妊娠している。中学時代に引きこもりになっていたようだ。突然の母の病に、妻・黒川芽衣は、苦労して貯めた貯金が心配になる。


大学生の二男は、時々、母に金の無心をしていた。しかしその金は、サラ金による借金だった。頼りなく、家族とは距離を置いているように見えた二男が、余名7日間という状況の中で、病院を追い出される母の、正確な診断を求めて奔走する。


二男は、医師・鶴見辰吾から板谷由夏の女医を紹介され、彼女の診断により、母の最初の診断余命7日は間違いであり、治療可能との診断がくだされ、母は手術を受けることになる。


能天気にみえたに二男が、医師の退院指示により、長男が次の病院を探すことを二男に協力を求めたあたりから、バラバラであった家族の方向性が、母の治療という大目的に向かうことになる。


個々人の思惑を、素直に表現している。特に、長男・妻夫木聡と、二男・池松壮亮は、当初逆ベクトルにあり、とうてい交錯することはないと思われた冒頭から、中盤にかけて変容する過程の表現法は圧巻かつ秀逸だった。


川の底からこんにちは [DVD]

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川の底からこんにちは』(2009)で石井監督は、映画的センスの素晴らしさを実感させたが、三浦しをん原作の仕事小説の映画化『舟を編む』(2013)では、松田龍平の演技を際立たせた。そして『ぼくたちの家族』である。妻夫木聡池松壮亮の対照的兄弟を、俳優の個性として見事に引き出している。


舟を編む 通常版 [Blu-ray]

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早見和真の原作を得た、石井裕也脚本・監督『ぼくたちの家族』は必見映画だ。今年上半期日本映画の大収穫だった。


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