チリの地震


現代思想』7月臨時増刊「震災以後を生きるための50冊」では、ハインリヒ・フォン・クライスト『チリの地震』を3名の識者が取り上げていた。また、『思想としての3・11』(河出書房新社,2011)でも、佐々木中氏が「チリの地震」を話の導入に用いていた。


思想としての3・11

思想としての3・11


タイミング良く、河出文庫から種村季弘訳『チリの地震』が復刊されたので、小説6篇を読んでみた。


チリの地震---クライスト短篇集 (KAWADEルネサンス/河出文庫)

チリの地震---クライスト短篇集 (KAWADEルネサンス/河出文庫)


種村季弘氏の翻訳の巧みさを排除しても、「チリの地震」は畏怖すべき傑作であった。簡潔にして、客観的描写とみえる視点は、21世紀文学では古風に思われる。しかしそのみかけには、仕掛けがあった。叙事詩的文体にあって、重要な出来事は、一文にて衝撃的な真実が記述される。


文学の力は有用である。それを証明しているのが「チリの地震」であり、ポオの「盗まれた手紙」などに象徴される。申すまでもなく、ポオ作品はラカンセミネールで引用されている。


「文学は実学である」と喝破した、荒川洋治氏の新著『昭和の読書』(幻戯書房、2011)も入手し読了した。「あとがき」で次のように書いていることが象徴的である。

昭和期を過ごした人の多くは、本の恵みを感じとっている。たとえ読まなくても、そのような本があると思うことで、前を見つめることができた。(233頁)


昭和の読書

昭和の読書