プレシャス
アカデミー賞助演女優賞受賞で話題となった『プレシャス』(Push, 2009)を観た。アフリカ系アメリカン(黒人)で、ハーレム育ちの少女クレアリース・「プレシャス」・ジョーンズ(ガボレイ・シディベ)の眼で捉えた現実。
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あまりに不幸な環境と生い立ちだが、夢見る世界では「スター」になっている。父親からレイプされ、二人目の子供を妊娠したため、学校を退学になる。フリースクール(オールタナティヴスクール)を紹介される。そこでブルー・レイン(ポーラ・ハットン=好演)に出会ったことが契機となり、前向きに、ポジティヴに堂々と生きて行くことを決意する。
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16歳でアルファベットを読めない少女、しかも太っているというより肥満、まさにデブにふさわしい圧倒的体格であり、レイン氏の指導により、徹底して文字に書くことを訓練させられる。マライア・キャリーがノーメイクで厚生員を演じて、プレシャスを助ける。
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二人目の子ども(一人目はダウン症児)を産んだプレシャスは、虐待を繰り返していた母親(モニーク=圧巻)から、エイズ陽性を告げられ、自らも検査すると、何とエイズ陽性になっていた。いわば、二重・三重の障碍を負うことになる。
それでも、プレシャスは負けない。そこに「教育」という配慮による周囲から働きかけがあったからだ。『プレシャス』は、負を正に転じさせる「教育という制度」と、「教育」を担う素晴らしい女性がいる。
粉川哲夫は、「シネマノート」で、ポストモダン(脱=近代)化された日本に引き寄せて次のように言う。
日本の場合は、この映画が描く世界のように、無知なるがゆえに不幸に陥っているわけでもない。識字率やある程度の教養は満たされているにもかかわらず、孤独や疎外感をいだいている者が多い日本の場合、教育者に出来ることは少ない。教育は、まだ「近代」が残っている世界でしか通用しないのではないか? この問いは、あきらかにこの映画を越えている。ほめ過ぎたので、あえてアドルノ流の批判を加えるならば、この映画は、「近代」という枠のなかで感動的な作品になった。教育が、メディアとともに拡大されたソフトな支配と管理と一体化したポスト近代の位相のなかでは、その社会の不幸を教育で救うことは出来ない。それは、ソフトな支配と管理をさらに多重化し、深化させるのに役立つだけだ。言い換えれば、日本では、こういう映画は絶対に作れないし、作っても絵空事になってしまう。ここが面白いといえば言えるし、不幸すぎるとも言える。
果たしてそうだろうか。「教育問題」を本作とは対照的な『17歳の肖像』(An Education,2009)で見てみよう。