風のガーデン(最終回)


12月11日(木)放映で、貞美(中井貴一)と父貞三(緒形拳)は和解のあと、貞美の最後の希望が娘ルイ(黒木メイサ)とヴァージンロードを歩くことであることを知り、貞三がルイに形だけの結婚式を挙げて、死を前にした貞美の願望を叶えるべく、貞美の同級生エリカとルイが、養蜂経営手伝いでルイに強引にアプローチしている石山修(平野勇樹)を口説き落とし、挙式を「風のガーデン」で行うことになる。


風のガーデンに咲く花々~富良野から~ [Blu-ray]

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貞美(中井貴一)は、ルイが食事を持って、結婚の話をしにキャンピングカーにやってきたとき、その話が、自分のための作為であることに気づくが、にこやかな表情でルイの申し出を受ける。このドラマで光るのは、中井貴一の一見軽やかに見えるが内面の苦悩を抑えている自然体の演技であろう。



もちろん、申すまでもなく緒形拳の遺作となった演技には、気魄が籠っている。自らかの死を自覚しながら、息子の死をみとるという、厳格でありがならも慈悲深いその存在感は忘れ難い。俳優として現役のままの死を選択した潔さは筆舌に尽くしがたい。


風のガーデン』は、東京を舞台に華やかに活躍する一流麻酔医師に突然おきる自然史的運命、主人公は東京を離れ故郷の北海道にある「風のガーデン」に帰省する、子供たちや家族会うために。この東京のシークェンスがドラマに厚みをもたらしている。


12月18日放映の最終回は、貞美からの手紙を内山妙子(伊藤蘭)が読むシーンから始まる。ルイの結婚式でルイと腕を組み、ヴァージンロードを歩いている中井貴一の姿が回想シーンとして表現される。この結婚式が作為されたものであることを承知しながら、父・緒形拳と娘・黒木メイサの企てに快く応じるのだった。本来華やかになるべきシーンは、回想であっさりと語られ、中井貴一は実家で最後の時を迎えることになる。


富良野風話

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伊藤蘭が最後の看護にと白鳥医院を訪問するが、緒形拳は家族で最後を見送りたいと丁寧に断る。続いて映される中井貴一は、強い麻酔剤でほとんど眠っている状態で、ときおり起きては、黒木メイサ緒形拳と会話をする。在宅介護のシーンも、いわゆる定番の落涙ものとは異なり、実にあっさりと撮られている。だからこそ感銘が増幅されたかたちで受けることになる。


そして、10月1日、貞美永眠と文字で最後が印される。死者は、生き残った者の記憶として語られる。同級生エリカ(石田えり)のもとへ散髪に立ち寄った緒形拳と、生前の貞美について、あたかも生きている人のごとく会話が交わされる。平原綾香黒木メイサが「押し花」を届けるシーン。数か月遅れて、かつての恋人貞美の死が、その娘から額縁に入れられた「押し花」とともに、知らされる。


ノクターン/カンパニュラの恋

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黒木メイサが、平原綾香と別れて、夜汽車に乗るシーンがいい。生き残ったものたちは、不在の貞美を記憶から語ることになる。ひとの生と死の反復が、自然史の一部であることを『風のガーデン』は教えてくれる。もちろん、ドラマのエンディングロールのあとに、「緒形拳のご冥福をお祈りいたします。」という言葉が添えられる。充実したドラマだった。


Path of Independence

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