風のガーデン


普段はほとんどテレビドラマを見ない。観たいと思うドラマがないからだ。ところが、倉本聡脚本『風のガーデン』を見はじめて、このドラマの素晴らしさに気づいた。大人が観るに耐え得る良質な作品になっている。


風のガーデン

風のガーデン


東京の病院で働く一流の麻酔医師・貞美(中井貴一)は、仕事ができるし、女性にもてる、部下には冗談を言いながらも正しく、仕事を指導している素敵な医師だ。中年で一人暮らしをしているが、北海道には娘ルイ(黒木メイサ)と息子・岳(神木隆之介)がいる。子供たちは、祖父・貞三(緒形拳)に育てられている。


12月4日(木)放映の第9回まで見て、このドラマの凄さを感じた。7年ぶりの親子(緒形拳中井貴一)の対面で、中井貴一が涙ぐむシーンには、見ている私も思わずもらい泣きをしてしまった。すい臓ガンに侵され余命がいくばくもないことを知った中井貴一の思想と行動は、見ていて一種の潔さと清潔なユーモアをたたえた表情には、感銘を受けてしまう。


北の国から―2002遺言 (SCENARIO 2002)

北の国から―2002遺言 (SCENARIO 2002)


中井貴一の女性遍歴は、ドラマに登場している人物として看護婦長・妙子(伊藤蘭)、歌手志望の茜(平原綾香)、同級生のエリカ(石田えり)など多彩だが、彼女たちはすべて中井貴一の味方であり、その付き合いの良さが反映されている。



株の売買人二神(奥田瑛二)の病が、末期ガンであり、麻酔医師として接した貞美(中井貴一)の鏡になっている。奥田瑛二も最後に頼ったのは、娘・香苗(国仲涼子 )であった。友人の医師・水木三郎(布施博)の協力を得て、何とか痛み止めで現状維持を保っているが、 貞美は自らの未来を二神に重ねているのだった。


このドラマで意表を突いた見事な設定は、貞美の「生前葬」を、同級生たちによって巧まれることだ。もちろん、同級生たちは、貞美の病状を知らない。出世した医師としての貞美に懺悔させるという趣向の「生前葬」だが、観るものには、貞美の病状がわかっている。従って貞美の内面を想うと、ユーモア溢れるシーンだけに、そこで繰り広げられるドラマは、一種名状しがたい熱い思いにとらわれる。倉本聡脚本の出色の光景となっている。


故郷の「風のガーデン」では、岳は祖父の唱える花ことばをすべて暗記して朗ずることができる。「花ことば」は、登場人物の行方や性格を言いあてており、この設定も見事なものだ。


毎回、見応えある構成になっている『風のガーデン』は、現在の空疎なドラマに対する批判でもあり、社会批判であり、生きることの根源を考えさせる優れた作品になっている。今年一番のドラマであり、凡庸な映画を凌駕している。シネフィルを自称する私にとっても、今年の映画の収穫(例えば『おくりびと』)に匹敵する、いやそれ以上の作品の出来だ。ドラマはたぶんあと3回くらいで終わりを迎えるであろうが、最後まで目が離せない。


愚者の旅―わがドラマ放浪

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祖父役のの遺作である故、『風のガーデン』の凄味が増幅されている。必見のドラマであり、何度も再放送されるべき作品である。倉本聡脚本のすべてを見てきたわけではない。しかし少なくとも『北の国から』の数倍は、出来が良いと言っても褒め過ぎではないだろう。


「北の国から」メモリアルアルバム―完全保存版

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優しい時間 DVD-BOX

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