おんなの浮気


堀江珠喜『おんなの浮気』(ちくま新書,2006.8)を、タイトルに惹かれ購読したが、トンデモ本であった。某大学教授という肩書きから、学問的に考察しているものだと思った。


おんなの浮気 (ちくま新書)

おんなの浮気 (ちくま新書)


まず、著者の経験が考察の根底にあり、都合の良い文献から適当に引用しているが、所詮「浮気推進論」にほかならない。個人的に浮気をすることには何ら反論はないが、大学教授がかかる本を世に出していいものか。読みながらこれほど不快感を覚えた本もめずらしい。対照的な本が、小谷野敦もてない男』(筑摩新書,1999)であろう。賛同するかどうかは別にして、小谷野氏の場合は、それなりのポリシーがあった。ところが、堀江教授の場合、読みながら「どうぞ勝手に浮気でも不倫でもおやりになったら」と思わせる。自分の浮気論を一般化されては、他の女性が迷惑するだろう。同じ意見の方は、堀江式浮気を実践すればよい。浮気や不倫は、あくまで個人的な体験に属する。その結果「虚しさ」だけが残るかどうかは本人の問題だ。*1


仮に『文学作品にみるおんなの浮気』としてテクストの中に浮気を検証するのであれば、堀江珠喜の主張も了解できる。しかしながら、本書は結果として堀江珠喜の下品さを露呈しており、公立大学の教授にこんなヒトがいるかと思うと、気分が悪くなる。本書を刊行するのであればせめて「公立大学教授」の肩書きを外してもらいたい。


うるわしき日々 (講談社文芸文庫)

うるわしき日々 (講談社文芸文庫)


本書を読みながら、女性論を書いてきた作家たちを想起していた。小島信夫『実感女性論』(講談社,1965)や伊藤整『女性に関する十二章 』(中公文庫,2005)*2などである。なかでも、福田恆存『私の幸福論』(筑摩文庫,1998)が、もっとも納得のできる、今でも十分通用する女性論(男性論)になっていることに気づいた。

変容 (岩波文庫)

変容 (岩波文庫)

*1:職場内の不倫は、アフターファイヴに留めて貰いたい。不倫関係を背景に仕事に影響をもたらすのは、周囲に多大な迷惑をかけることになる。そんな常識も通用しないヒトがいる職場もあるのだ。

*2:伊藤整の本が最近、岩波文庫で次々文庫化されている。『変容』『鳴海仙吉』『小説の方法』『小説の認識』など。『変容』以外は未読。