これからホームページをつくる研究者のために


メールマガジンAcademic Resource Guide」の編集者・岡本真の初めての著作。副題が「ウェブから学術情報を発信する実践ガイド」として、研究者に論文や学会報告などの学術論文をウェブ上で公開することを奨励するガイドブックになっており、単なる「HPの作り方」とは決定的に異なる。



1998年ころから研究者の個人HPをみてきた岡本氏によれば、学界では、研究者個人がHPをつくることはマイナスの印象や評価を受けるという傾向があると指摘している。研究者同士が足をひっぱり合うのである。


本書の基となっているのが、メールマガジン「Academic Resource Guide」で、そこで紹介された個人HPを中心に3部に構成されている。すなわち、「個人ホームページをつくる前に」「個人ホームページをつくる」「個人ホームページをつくった後に」。


冒頭に「アリアドネ(二木麻里)」の紹介があるのが嬉しい。「自分の役に立てばいい」という発想のもとで「リソース集」をつくったのが発端であり、それが結果として他の利用者の利便性に貢献している。実は私もこの「アリアドネ」を初期の頃から利用させていただいている。


書くためのデジタル技法 (ちくま新書)

書くためのデジタル技法 (ちくま新書)

徹底活用「オンライン読書」の挑戦

徹底活用「オンライン読書」の挑戦


各章の項目は「基礎編」「応用編」「理想編」にそって具体的なHPが紹介されている。研究成果は、Web上で発信されるべであり、大学や研究機関に所属するいわゆる「紀要論文」は、無料公開すべき性格のものだと思う。


岡本氏が研究者に、「シラバス」「レジュメ」「参考文献リスト」「講義ノート」などの講義資料の活用、「文献目録」「年表・年譜」「翻訳」などの研究資料の公開、「エッセイ」「コラム」「書評」「論文評」「講演」「報告書」などの著作物を活用する、さらに「電子テキスト」「法令・判例」などの「インターネットリソース」をつくることをも奨励している。がしかし、講義関係を別とすれば、研究者ではない人々が既に、ネット上に公開している例が多い。*1かつて「紀要」論文の読者は、1・5人だと揶揄的に指摘されたことがあり、実際、研究論文の読者というのは、冊子形態であるかぎり、その程度の読者だろうが、Web上に公開することで、「ロングテール」現象としての潜在的利用者を発見できるはずだ。


ソキウス」(野村一夫

インフォアーツ論―ネットワーク的知性とはなにか? (新書y)

インフォアーツ論―ネットワーク的知性とはなにか? (新書y)


本書221頁以下の「先行事例に学ぶ」が大変参考になる。また「附録:研究者の個人ホームページの関連年表」と「人名索引」も有用である。

本書の中で、私が注目しているサイトは以下の、

「加藤秀俊データベース」
「二村一夫著作集」
森岡正博全集


などの、研究者のWeb上著作集の公開である。著作権の延長*2が、法的制定化に向かう危機的な状況にあるなかで、著作権を放棄するコピーレフト志向の研究者は、大いに評価すべきだと思料する。

本書から他には、

内田樹の研究室

ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)

ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)

ラカン派精神分析学・日本語文献案内」(中野昌弘)
哲学クロニクル」(中山元


などがあるけれど、いわゆる「研究者」に該当しない一般在野の人々がはるかにネツト公開に対して意欲的である。岡本氏による「実名を名乗ろう」「サイトポリシ−を記そう」「著作権を理解しよう」「リンクの自由を理解しよう」「見栄えより内容を重視しよう」などの呼びかけに、研究者は積極的にかかわって欲しい。市民が匿名を名乗ることは、研究機関以外の組織では許容されるべきだろう。


いずれにせよ、ネットの世界に研究者のHPやブログが少ないと多くの人は感じている。本書を契機に税金や補助金で研究している研究者の研究成果が公開されることを期待したいものだ。

*1:ウィキペディアとBritannicaを比較して論じた記事があった。学者が編集・執筆した著名が事典が、100%正しいという保証はないことが、既に指摘されている。

*2:著作権は、現在の死後50年を70年に延長しようとする動きがある。