いつか読書する日


いつか読書する日 [DVD]

いつか読書する日 [DVD]


キネマ旬報』2005年度の主演女優賞は、田中優子さん。『火火』は観ていたが、未見の『いつか読書する日』を観る。とりたてて美人というわけでもないこの女優さんの魅力は、意思の強さやある種の凛とした姿に出ているのかも知れない。30年間も心に秘めた恋心といえば、かなり古風なイメージを受ける。一方、平凡な市役所の公務員役・岸部一徳は、クールな表情で感情を面に出さない演技が多く、日本映画の脇役として大杉漣とともに公開される映画の半分は、この二人が出演しているのではないかと思わせる。


田中優子岸部一徳。そのイメージからおよそ秘めた恋に似合わないように思える。しかし、二人には青春時代にそれぞれの母と父が自転車に相乗りしていて事故に遭い、死亡した、しかも二人は不倫関係にあったことが、その後の二人の生き方を決定したようだ。


田中優子の部屋の壁面すべてが書架になっている書斎が素晴らしい。でも、実際はそんなに整然と、配架されているのは不自然なこと。読みかけの本が、机上周辺に数冊、数十冊あるはず。牛乳配達を終えて帰宅し、新聞を読みながら食事をするとき、第一面の出版社広告を切り取る光景には、思わずにやっとしてしまう。読書好きは、同じようなことをするものだ。深夜の読書がドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』には驚いた。これは、監督・緒方明の趣味だろうか。


岸部の妻・仁科亜季子は、自分の死後二人が結ばれることを願う。そして、妻の死により、その日を迎えるが、一瞬の至福と悦楽は一転する。それでも、田中優子は、自分の道を行く潔さ。人は、自分の心に従って生きることが困難であること、その理不尽さを感じさせる秀作だった。