悪い男
『サマリア』で救いがないと書いたけれど、『悪い男』のラストはフェリーニの『道』そのものであり、ハンギとソナは救われている。ラストショットとして理解可能なシーンが三つあり、冒頭で二人が出会ったベンチに、二人が座り別れるシーンが最初。ここで終わりにすれば、「救われない」。二つ目は、海岸のシーン。入水した女性の残した写真のパズルを、ソナが解くシーン。海辺でハンギとソナが並ぶ光景。ここで終わると、「救いがある」。そして、『道』のザンパノとジェルソミーナになった二人が車で走るシーン。ここは俯瞰ショットだが、「救いがある」。いずれにせよ、『悪い男』は、厳然として存在する階級社会への激しい否定の映像が指し示すのは、ひりひりした痛みだ。にもかかわらず、女子大生は、結果としてヤクザの社会へ降りてくる。
ヤクザのハンギを演じるチョ・ジェヒョンは、最後まで一言もことばを発しない。なぜか。絞りだすように出す「ことば」の重さ。「ヤクザに愛があり得るか」という問いにほかならない。一見、悪者に見えるが、実はきわめて無垢な存在である。キム・ギドクの出自に関係する。
- 出版社/メーカー: エスピーオー
- 発売日: 2004/08/06
- メディア: DVD
- クリック: 57回
- この商品を含むブログ (88件) を見る
キム・ギドクの映画は、階級社会へ過激な挑発をしてみせるフィルムになっているが、そこには意外にも、「救い」が周到に用意されていたのだった。
- 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
- 発売日: 2005/09/23
- メディア: DVD
- クリック: 61回
- この商品を含むブログ (133件) を見る
『サマリア』も現代韓国社会への批判的言説であり、「どこにも救いはない」ように見えたけれど、フィルムを遡及すると、必ずしも、そうではなかったことに気づく。
近々、『受取人不明』(2001)とチャン・ドンゴン主演『コースト・ガード』(2002)を観る予定。さて、再々度、キム・ギドクに言及することになろう。
- 出版社/メーカー: エスピーオー
- 発売日: 2005/08/26
- メディア: DVD
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (33件) を見る
- 出版社/メーカー: エスピーオー
- 発売日: 2005/12/02
- メディア: DVD
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (45件) を見る