図書館を使い倒す


図書館本というジャンルがあるかどうか寡聞にして知らないけれど、いわゆる図書館学関係の専門書の類ではない、図書館活用のための新書版に、思わぬ収穫を得ることがある。千野信浩著『図書館を使い倒す!』も、この種の図書館本だが、週刊誌記者から見た図書館利用法が紹介されていて、ビジネス調査のための、便利本になっている。


図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)

図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)


結論的にいえば、図書館界では基本的な知識とされる「ランガナータンの五原則」(1931年)に依拠する。

ランガナータンの五原則
1.図書館は利用するためのものである。
2.いずれの読者にもすべて、その人の本を。
3.いずれの図書にもすべて、その人の読者を。
4.図書館利用者の時間を節約せよ。
5.図書館は成長する有機体である。

70年以上すぎても、この「ランガナータンの五原則」は有効である。千野信浩によれば、図書館の本質は変化していないという。

よい図書館とは、図書館の本を貸し出し、複写など徹底的に利用でき(第一法則)、利用者の制限を極力減らし(第二法則)、司書によって利用者のニーズにあった図書を紹介しており(第三法則)、利用者に迅速なサービスや、わかりやすい開架での図書の閲覧環境を用意して(第四法則)、新しいサービスを導入し利便性の向上に努めている(第五法則)のである。(p.185−186)


もちろん、この「ランガナータンの五原則」には賛同するし、東京都立図書館の「しらべま専科」や、「第五章 全国お薦め図書館ガイド」など参考になる。しかし、全体を通読しても何か物足りない。*1


図書館に訊け! (ちくま新書)

図書館に訊け! (ちくま新書)


その疑問に応えてくれるのが、井上真琴『図書館に訊け』(ちくま新書)である。井上氏は、同志社大学図書館に勤務する現役図書館司書であり、利用者の立場にたって、図書館の仕組みはこうなっている、資料を知ること、資料にたどりつく方法など、具体的で実践的な内容である。ただ、大学の一年生を対象にしたものなので、市民向けには全てが該当しないかも知れないが、何かを調べることを目的に図書館の利用を目的とする人にとっては、とても有効で便利な優れた入門書になっている。


他の図書館本に、岩波ジュニア新書の田中共子『図書館に行こう』はやさしく書かれているが、大人が読んでも有用である。公共図書館の利用を前提に、様々な参考図書を事例を交えて紹介している『まちの図書館でしらべる』(柏書房)も楽しく読ませて、有効であるお薦め本。


図書館へ行こう (岩波ジュニア新書)

図書館へ行こう (岩波ジュニア新書)

まちの図書館でしらべる

まちの図書館でしらべる



インターネットの普及で、資料の電子化が進み、多種のデータベースが出てきている。ややもすれば検索エンジンに頼りがちになるが、ネツトの世界は、玉石混交であり、書物のもつ有効性は今だ健在である。本とネットの併用、そんな時代の中に私たちは生きている。もはや、本のみの世界に戻ることができない。アナログ人間としては、複雑な思いが交錯するが、進化する社会で生きるのは人類の宿命なのだろう。小林秀雄の「心脳問題」は別として。

*1:何故かといえば、『大宅壮一文庫雑誌記事索引総目録』に触れていないからだ。雑誌記者であれば、「大宅壮一文庫」は一級資料として、とりあげなければならない文庫である。