オーストリア国立図書館


朝日新聞6月12日(日)の「Be on Sunday」の、「奇想遺産」でオーストリア国立図書館が紹介されている。

高さ30メートル近いドームの下、左手を腰にあて、右腕をのばした神聖ローマ帝国皇帝カール6世の石像がそびえている。神々の姿を描いたフレスコ画が天を覆うように展開し、空間は壮麗の極にある。暗さに目が慣れると、像を囲む曲面壁が革表紙の本で埋めつくされているのに気づく。
「えっ、これが図書館?」と思うのは、近代以降の常識にとらわれているためか。ウィーンの「オーストリア国立図書館」に足を踏み入れると、思い込みが音を立てて崩れていく。
学問や知識は清貧と隣り合わせではなかったか。理知と豪華絢爛(けんらん)な空間は両立しうるのか。・・・(中略)・・・
18世紀初め、ハプスブルク家のホーフブルク(王宮)に出現した図書館は、バロックを代表する建築家エルラッハの手になる。空間は「知」と遠いところに位置するように思える。
だがカール6世の娘、女帝マリア・テレジアの治世に、オーストリアが国内の体制を一新した事跡を考えると、図書館がハプスブルク家あげての「知」へのパトロナージュだったことに気づく。権力者は軍事的な強権も振るったが、開明君主でもあった。
図書館の建築を命じたカール6世は、午前8時から正午まで市民に開放するにあたり、利用指針を示し、国民の知力向上を呼びかけた。・・・(中略)・・・
ヨーロッパの権力者の「知」への崇敬が読み取れる。ひずんで奇想的な空間が極まれば極まるほど、知識への敬意は強く託されていたと考えたい。
近代に至るまで「知」は、教会や皇帝、王の手にあった。パイプオルガンの演奏は「天の音楽」となって礼拝堂に降り注ぐが、それは「知」を掌握したうえでの緻密(ちみつ)な科学的な計算に基づき、ひとびとをひれ伏させる仕掛けだった。
その「知」をカール6世は、市民に開放する姿勢を示し、オーストリアは今も続く文化大国となっていく。現代の味気ない図書館で「知」の継承は可能か。地球規模の頭脳と呼ばれるインターネットの圧力もあり、近代が組み立てた「知」の危うさも実感する。


実際、数年前になるが、この「オーストリア国立図書館」を見学*1したことがあり、知の宝庫がバロック的美術と融合して実に素晴らしい図書館であることに感銘を受けた。その数日前には、美しさでは世界一と言われるプラハストラホフ修道院の図書館(「哲学の間」や「神学の間」)を見たあとであり、国家的規模の図書館が、いってみれば美学的存在であるとともに、1700年代のウィーン市民に開放されていたことの意味を大きさを考えてしまう。


国立図書館では、あのマルクスが『資本論』執筆のためにかよったという大英博物館BL(イギリス国立図書館)があり、また、フランス国立図書館BNや、アメリカ議会図書館LCがある。Web上で洋書を検索する際には、オンライン目録として利用できる。もちろん、日本には、国立国会図書館NDLがあり、図書や雑誌論文のオンライン検索(NDL-OPAC)も可能となっている。カール6世の時代とは、環境そのものが根本的に異なっているが、果たして、学術研究の成果が、本当に、市民に開放されているのだろうかという疑問が残ることは否めない。*2



『おもしろ図書館であそぶ』は、その点、自分用の専門図書館を持つためには、良質のガイドブックだろう。私たちは、「近代が組み立てた「知」の危うさ」の中にいることを自覚しつつ、「知的空間としての図書館」がどのように再構築されるのか、一つの新聞記事に導かれて、サイーバー空間で管理されている現代人にとって、このことは大事な問題だと思った。閑話だとは知りつつ。


国立情報学研究所(NII)では、GiNii学術情報コンテンツポータルサイトを、2005年4月から公開している。CiNii(NII論文ナビゲータ)のみ有料だが、その他は無料で情報が検索できる。*3

新書マップ
国立情報学研究所(NII)の協力を得て、約7,700冊以上の新書を、関連テーマに沿って検索できる画期的システムである。思わぬところから、関連図書が出現することに驚く。


検索結果一覧から、新書の内容紹介や目次まで確認することができるのが嬉しい。これを、次は、図書や文庫に適応できるはずだ。なぜなら、Webcat Plusにその機能があるからで、Webcat Plusを、「新書マップ」方式の検索にすることは、可能だと思う。

新書マップ~知の窓口~

新書マップ~知の窓口~

*1:もちろん、一人の観光客としてであり、「おみやげ」としてOesterreichische NationalBibliothekのロゴマーク入りのTシャツ2枚を購入した。このTシャツはいまでも愛用している。

*2:それは、論文=コンテンツの入手の困難さにある。NIIは、研究機関中心(大学等高等教育機関)に開かれているが、市民が、Web上でコンテンツを入手することは基本的に出来ない仕組みだからだ。NDLの論文複写を例外として。

*3:これまで、研究機関のような組織に属していないと、利用できなかったNACSIS-IRが廃止となり、利用料金が必要だが、市民の誰もがCiNiiを利用できるようになったことは評価できる。