ミリオンダラー・ベイビー


30歳を過ぎたヒラリー・スワンクには、生き抜くためには「ボクシング」をすること以外の道はない。クリント・イーストウッドが経営するジムで住み込みの雑用係りのモーガン・フリーマンは、そんな彼女に同情し、アドヴァイスをする。「女の指導をしない」原則のイーストウッドは、ヒラリー・スワンクに自身の娘を写し、彼女を強いボクサーに育てる。イーストウッドが自ら言うとおり、『ミリオンダラー・ベイビー』は「シンプルな父と娘のラブ・ストーリー」にほかならない。


物語は、モーガン・フリーマンのナレーションによって進む。ボクシングシーンが多いけれど、『ロッキー』のような単純なボクシング映画ではない。クリント・イーストウッドが重ねてきた年齢からおのずと漂う雰囲気は、家族への愛に集約される。名前のないガンマンとして、マカロニウエスタンという名のもと、『荒野の用心棒』で映画界に登場したクリント・イ−ストウッドは、『ダーティ・ハリー』で大ブレイクした。


タフでマッチョのイメージが強いが、一方、女性恐怖症でもある。初監督が『恐怖のメロディ』であり、ソンドラ・ロックとの共演など、「女性への恐れ」が前面に出ている。それが、『許されざる者』あたりから、フェミニズム傾向が強く出てくる。『ミリオンダラー・ベイビー』は、父と娘との愛だが、女性が生きるためのキャリアを積むことを支援する。


タイトル戦を回避するイーストウッドには理由があった。タイトルに挑戦するヒラリー・スワンクの対戦相手が巧妙に反則を重ねてくる。そして、思ってもみない結果が待っている。ボクサー廃業後のヒラリー・スワンクとどう対峙するかで、このフィルムの評価が定まったといえよう。タイトル戦終了後の30分が、濃密な時間を提供してくれる。


老いた元ボクサー、モーガン・フリーマンは静謐な位置と語りにおいて、彼のベストワン・フィルムとなり、また、ヒラリー・スワンクに二度目のオスカーをもたらした。クリント・イーストウッドは、自らも監督賞を受賞した。むろん、受賞に値する作品だった。


監督・主演で、コンスタントに映画を作りつづけるクリント・イーストウッドは、アメリカ映画界にあって、数少ない作家主義的な映画監督だ。作品は、ますます磨きがかかり、渋く、味わい深い艶のあるフィルム。ハリウッド的というより、ヨーロッパ系譜の作品といえるだろう。ついに、ヒッチコックハワード・ホークスと並ぶ作家となった。イーストウッドは、作家主義でありながらも、固有のスタイルを見せない職人監督という点で、ヒッチコック=ホークス主義者と呼称してもいいだろう。


「ゴー・アヘッド、メイク・マイ・デイ」(ダーティ・ハリー)の名せりふとともに、イーストウッド孤高の人でもある。


『ミリオンダラー・ベイビー』の公式サイト


クリント・イーストウッドの代表作・傑作は多い

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