詩とことば
- 作者: 荒川洋治
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/12/16
- メディア: 単行本
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荒川洋治『詩とことば』(岩波書店)は、「ことばのために」シリーズの一冊。
普段はあまり詩を読む機会がない。『詩とことば』に引用されている詩は、宝石のように輝いている。詩はむつかしい。時々、詩を読むけれど、詩を書くことはとてもではないができない。
本書Ⅲ「詩を生きる」で、唐突に小論「網野善彦を知らなかった」が挿入される。
これは仮定の話だが、もし『無縁・苦界・楽』が一九七〇年前後に出ていたなら、当時の青年読者は飛びついたはずである。・・・(中略)・・・
僕は網野善彦を知るのがとても遅れてしまった。もっと早く知っていたら読書もその分だけ楽しくなったし、歴史への目も開かれただろう。たった数年のちがいで人間の知ることが変わる。(p.109)
たしかに、本と出合う時期というものがある。私も網野善彦氏と出会いそこねた。遅れてきた読者である。
いつもいつも読む側にたっていると、詩は他人事である。作者の側に立つと、責任を感じ、詩を自分のものとして読むことになる。こうして近くに引き寄せることで、どんな詩とも対話することができる。詩を読むことは、詩を書くことなのである。(p.121)
荒川洋治は、大切なことをさりげなく、書く。
いま、不思議というしかない、いろいろな事件が起きる。この社会はどこかおかしいのではなかろうか。人間もおかしなものになったのではないかと感じている人は多い。もしそうだとしたら、いま好んで読まれているものがどういうものなのかを見る。すると、情報だけの本だったり、明日役に立つだけの本だったりする。これ以上ストレスがほしくないので、簡単なものに吸い寄せられるのは、人のさだめ。誰も非難できないが、このまま進むといっそう簡単な人間ができあがり、そのために、人はこわい思いをする。
いまもっとも、読まれていないものは、何か。文学書だ。そのなかでも読まれないのは、詩集、詩の本。詩とのかかわりがなくなってから、人の心が変わったのではないか。だからいまはむしろ詩が必要なのではないかと、考えることにしよう。(p.148)
さすが、「文学は実学である」(『忘れられる過去』)といった荒川洋治、真の現代詩作家(詩人ではない)がここにいる。
『詩とことば』は、近代詩史にもなっている。近年では貴重な書物だ。各章の口絵は、Ⅰ章に『黒田三郎詩集』、Ⅱ章は石牟礼道子『はにかみの国』、Ⅲ章『谷川雁の仕事』、そしてⅣ章が『現代文学大系67現代詩集』になっている。できれば、巻末に詩人と作品名の「索引」がほしかった。
- 作者: 黒田三郎,朝倉勇
- 出版社/メーカー: 芸林書房
- 発売日: 2002/04
- メディア: 文庫
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