みすず読書アンケート

『みすず』の1月号は、毎年前年度の読書アンケートが掲載される。
2005年1/2月号は、全編がアンケートになっている。本の収穫として、様々な雑誌・新聞等にアンケートが掲載されるが、もっとも興味深いのが、『みすず』の「読書アンケート特集」であり、それぞれの専門家、学者、各分野の第一戦で活躍する人々によるアンケートであり、内容も読み応えが十分である。


このアンケートでは、専門分野がまったく異なる人たちのもので、3人が推薦していれば、必読書といえる。


2004年度の「読書アンケート」で、3票以上の本が6冊ある。
『みすず』の場合、旧作も含まれるので、3票の意義はきわめて大きい。


中井久夫『徴候・記憶・外傷』(みすず書房)5票

徴候・記憶・外傷

徴候・記憶・外傷


・『バレンボイム/サイード 音楽と社会』(みすず書房)4票

バレンボイム/サイード 音楽と社会

バレンボイム/サイード 音楽と社会


平山洋福沢諭吉の真実』(文春新書)4票

福沢諭吉の真実 (文春新書)

福沢諭吉の真実 (文春新書)


中沢新一『僕の叔父さん 網野善彦』(集英社新書) 3票

僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)

僕の叔父さん 網野善彦 (集英社新書)


・中村稔『私の昭和史』(青土社)3票

私の昭和史

私の昭和史


鹿野政直現代日本女性史ーフェミニズムを軸として』(有斐閣)3票

現代日本女性史―フェミニズムを軸として

現代日本女性史―フェミニズムを軸として


以上の6冊が、3票以上を獲得している。
とりわけ、選者のコメントを読むことが、楽しみなのだ。


中井久夫『徴候・記憶・外傷』については、

過去に根をおろす索引と一瞬の未来を走査しようとする徴候とのあいだの空白地帯である<現在>においてこそ<わたし>を生きざるをえないことを告げられた。『徴候・記憶・外傷』の著者なら「メタ私」と言うのかもしれない。<現在>は、空白地帯であるゆえに見えないのだから、それ以降のわたしの読書は「見えない」意識が読むとの感触によって持続させられた。(鈴木一誌

未来へ向かう予感と徴候、過去から来る余韻と索引の語ることに耳を澄ますこと。
索引の多さがその人の人生の豊かさに関連すること。(栗原彬)


中井氏の著書は、「索引」が充実しているようだ。本に「索引」が付されているかどうかにこだわる方なので、期待度は高い。


バレンボイム/サイード』は

親友同士であるユダヤ系音楽家パレスチナ系学者の二人が語りあった一冊。「僕が音楽に魅せられる理由の一つは、それが音でできているにもかかわらず、沈黙までも含みこんでいるからだ」と言うサイードの言葉が心に沁みる。サイード死去の際に、バレンボイムシカゴ交響楽団のサイトに載せた追悼文の最後、I lost my soul mate.には万感の思いがこもっていた。(村上由美子

バレンボイムとサイードの対話集は、このふたりでなければ成り立たないという絶妙な組み合わせ。多岐にわたる内容もさることながら、こうした本が成立する背景にも侮りがたい奥深さを感じた。(鈴木布美子)

「複数のアイデンティティを持つ必要」を説く彼らに全面的に共感しながらも、彼らの人生行路と狭小な島国に跼蹐するわが身を引比べて、及び難いと感じたのも事実である。
(三光長治)


バレンボイムは、モーツァルトのピアノ協奏曲を何枚が持っている。サイードとの接点が、指摘されると聴きなおしたくなった。もちろん、対談集も読みたい。


中村稔『私の昭和史』は、

昭和二年生の著者の二十年八月十五日までの回想。私は何より著者の散文の強さにうたれた。感嘆の他ない。(永田洋)

詩人による幼少年期から旧制第一高等学校にいたるまでの自伝である。記述の一切が常に同時代の昭和史との連関の中で語られている。ともすれば単純な感傷の中で美化されがちな旧制一高の生活が具体的に述べられていて、著者の想起力によって甦らせられた現実が浮かび上がってくる。なお著者は、尾崎・ゾルゲ事件の主任予審判事であった父親が、自分が出会った日本人中で一番偉いと思ったのは尾崎秀美、外国人ではリヒアルト・ゾルゲだ、と二三度述懐したことを記している。そして父親が尾崎・ゾルゲを目の当たりにして、自分が節を屈して生きている、と感じたのではないか、と記している。彼らの心情的高潔さが心を打ったのであろう。(中川久定


中井久夫『徴候・記憶・外傷』と『バレンボイム/サイード』は気になりながらも、未購入であった。サイードの『戦争とプロパガンダ』シリーズは、4冊購入しぼちぼち読んでいる状態。
平山氏の著書は、私のブログ2004年8月31日に、また、中沢氏の著書は、2月6日に覚書を記録している。


中村稔『私の昭和史』は、購入済・未読、という状態であり、中川氏の文章から、俄然、読みたくなった。手元にあるので、パラパラとめくってみる。読書欲をかきたてる。
鹿野政直現代日本女性史』は、未購入・未読であるが、鹿野氏の著書は今は見合わせる。


いずれにせよ、3票以上の本は、「アンケート」を読むとなるほどと納得させられる。
未購入の3冊のうち2冊は、早速、入手手配をすることにしよう。


それにしても、みすず書房さん、『みすず』の「読書アンケート」は期待度が高いですよ。
継続されることを、切に希望する。多くの読者が待っているはず!



追記(2005年2月23日)

『みすず』の「読書アンケート」は、誰がどのような本を読みコメントしているかが本来の読み方で、私のような変則的な集計方法は、あくまで「独断と偏見」で読んでいることとして、寄稿者には了解していただきたい。実際、あの人は、どんな5冊をとりあげているのだろうか、と読むのが正しい読み方であることは、申すまでもあるまい。