シルヴィア


広島の映画館「サロンシネマ」で観た『シルヴィア』(Sylvia, 2003, 英)ついて書いておきたい。


クリスティン・ジェフズ監督、グウイネス・パルトロウ主演『シルヴィア』。


シルヴィア・プラステッド・ヒューズ。二人とも英国では著名な詩人。
夫婦であった二人の関係を、シルヴィアの視点から捉えた映画になっている。


アメリカ生まれの才人にして美人シルヴィアは、ケンブリッジ大学に留学中、後に夫となる桂冠詩人テッド・ヒューズに出会う。二人はたちまち恋に落ちる。


芸術家同士の結婚は、創作という想像力の世界と、日常生活のバランスがいかにとれているかによって、継続性が試される。お互いの世界が完全に同一であるはずもなく、また、価値観も違う。結婚とは妥協することだろう。愛と芸術において、妥協することができるかどうかが、結婚が継続するか破綻に終わるかの、決め手になる。愛と芸術の結合が成功する例は、おそらく奇跡に近い。この点、学者同士は、芸術家ほどの葛藤はないようだ。


シルヴィア・プラステッド・ヒューズの場合は、テッドが先行して世に知られることになり、シルヴィアは家庭と子供に束縛され、詩が書けない日々が続く。加えてテッドの浮気による嫉妬。シルヴィアの世界はしだいに狂気の世界へ踏み込んで行く。


シルヴィアに『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー賞主演女優賞を手にしたグウイネス・パルトロウ。テッド・ヒューズを個性派男優ダニエル・クレイグが演じる。二人とも、芸術家の風貌と個性を見事に発揮している。ひたすら純粋であるが故に狂気の世界に傾斜して行くシルヴィアと、一方的な愛の嵐から逃避せざるを得ないテッド。芸術は悲劇的世界からのみ生まれる。


女性監督クリスティン・ジェフズ。女性だからこそ描きえたフィルム。ラスト近く、俯瞰で捉えた真っ赤なシーツに包まれたシルヴィアが運ばれるシーンは、無言のまま。美しくもあり痛ましい。


シルヴィア・プラスは、死後20年ちかく過ぎてから元夫・ヒューズの編集によ『Collected Poems』でピュリッツァー賞を受賞する。真の芸術は、死後評価される例。悲劇性が大きいほど、皮肉なことだが作品が際だつことになる。


唯一の長編小説『ベル・ジャー』(The Bell Jar, 1963)は、繊細な少女の自伝的小説として読み継がれている。


ベル・ジャー (Modern&Classic)

ベル・ジャー (Modern&Classic)