文庫本福袋

文庫本福袋!

文庫本福袋!


坪内祐三『文庫本福袋』は、『週刊文春』連載の「文庫本を狙え!」の2000年から2004年分で『シブい本』および『文庫本を狙え!』に続く第3弾、相変わらず、坪内氏の渋い好みで選ばれた文庫本にかんするエッセイになっている。


この種の本は、目次を見ながら、「おっ、この本は買っている」とか「うっ、こんな本が出ていたのか、早速、購入しよう」など、自らの関心に従って、読み進めることができる。冒頭から順番に読む本ではなく、ぱらぱらと頁を繰りながら、ふと眼にとまった本を、坪内氏はどのように読んだかが、伺える楽しみがある。『福袋』というタイトルもいいし、装丁も本の中に本があるという入れ子になっていて嬉しくなる。


坪内氏の目利きは鋭く、かつ広範囲に亘っているので、私が見逃していて、購入リスト作成の情報源として有用でもある。『文庫本福袋』から、購入リストをあげてみよう。

  1. 色川武大『生家へ』(講談社文芸文庫*1
  2. 吉行淳之介『やわらかい話』(講談社文芸文庫*2
  3. 松本清張『文豪』(文春文庫)*3
  4. 山田稔『残光のなかで』(講談社文芸文庫*4
  5. カルディン・トムキンズ著/青山南訳『優雅な生活が最高の復讐である』(新潮文庫*5
  6. 田中小実昌『自動巻時計の一日』(河出文庫*6
  7. 正宗白鳥自然主義文学盛衰史』(講談社文芸文庫*7


リストを見れば、講談社文芸文庫が圧倒的に多い。これは、私の趣味・趣向が、講談社文芸文庫に合うからであろう。年末の読書にでも準備しておこう。


本書から印象に残ったことばは、庄司薫『ぼくの大好きな青髭』(中公文庫)のことばが古びていないことを指摘し、薫くんの以下のことばを引用しているところである。

「ほんとうに怖いのは、年老いて、遥かな時間と疲労の厚い壁の向こうに夢と情熱に溢れた十八歳を持つそのことではなく、実は十八歳の自分をそのまま持ちながら年老いるということのなのではあるまいか?」
ないものねだりかもしれないが、薫クンの今の、つまり五十歳を過ぎた薫クンの言葉を眼にしたい。(p293)


庄司薫には、薫クンシリーズの四部作『赤頭巾ちゃん気をつけて』『白鳥の歌なんか聞えない』『さよなら解決黒頭巾』それに、この『ぼくの大好きな青髭』以外には、代表作がない、というよりも、小説を書いていない。いまさら、薫クンのその後を読みたくはないけれど、作者が書けない状況とはどういうものなのか、そのことだけでも書くべきではないか。それが、作家の使命であると思うのだが。



坪内祐三『文庫本を狙え』シリーズ

文庫本を狙え!

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シブい本

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