古本屋の女房


古本屋の女房

古本屋の女房


田中栞さん『古本屋の女房』(平凡社)が面白い。
本好きの人が、古本屋でも開業してみたいなどと、とんでもない欲望を持ってはいけないことを、田中栞さんは教えてくれる。世の中には、<本好き>なる人々が多い。また、<読書好き>という人々も多い。「趣味は読書」と答える人が圧倒的に多いことも事実だ。でも、古本屋さんになることは、単なる<本好き>だの<読書好き>では、経営できないことを、著者は古本屋の女房としての経験から説いている。


大きくは三つの章から構成されていて、「古本屋の女房」は、著者がいかにして古本屋の女房になったか、から始まり古書店の裏の事情を解説している。古書店の関係者が、ブックオフで「セドリ」*1をするなど、予想外のことに驚く。


何といっても、圧巻は「四面書架の古書売買」の中の「女房が離婚を考えるとき」であろう。本好きの男性は、心して読まれよ。

・・・今、主人は倉庫でインターネット書店を運営しつつ、アルバイト探しの日々を送っている。ネット書店だけで生活費は捻出できないので、どこかへ勤めに出る必要があるのだ。長年、新刊書店と古本屋の仕事を続けてきて、書物に通じている人である。たとえアルバイトでも、この能力が生きる職場で働いて欲しいと思う。しかし例のお人好しが災いして、書店バイトの口は軒並み断られているのが現状である。(p213)


店舗を処分した夫を見る眼が厳しい。本好きの人は、どちらかといえば田中さんの主人のような側面がある。他人事とは思えない。夢々、古本屋を開業しようなどと思ってはいけない。読書を趣味として、仕事は他に見つけるのが賢明な選択といえよう。


さて、とはいうものの、本書巻末の「索引」がよろしい。「古書」関係の用語や、「書物全般」にかかわることばの選択も、著者らしい。「古本屋めぐりアイテム」は、子連れで古書店をまわるという奇跡的な行為の際に必要なアイテムが並ぶ。本書は、女性が、古書、古本屋について書いた稀有な書物であり、古本屋の奥さんならではの薀蓄が披瀝されている。



黄麦堂(おうばくどう)
http://www2.neweb.ne.jp/wd/ohbakudo/

このホームページから見ると、黄麦堂とは「絶版文庫」の販売を中心にしているようだ。
田中栞さんは、「黄麦堂」夫人。

*1:他の書店から、欲しい本だけを抜き買いしてくること