物は言いよう
- 作者: 斎藤美奈子
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2004/11/10
- メディア: 単行本
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『文章読本さん江 』(2002)以来の活躍めざましく、斬新な分類法による、直言的な表現には、いつも圧倒されながら、なるほどと首肯してしまうことになる。
『物は言いよう』は、FC(フェミ・コード)による★印によるランク(難易度)つきの、フェミニズムに関する実用書(著者の言)。
性差別やセクシャル・ハラスメントに怒っている人は多数いるにもかかわらず、これについて書いたりすることは、いまやタブーに近い。「このヒステリーババア」という石礫がどこからともなく飛んでくるからだ。他方、頼みの綱のフェミニズムはといえば、学問的な精度を上げていく一方で、一般の生活者に届く言葉をかなり以前から失っている。その間にできた空白地帯にも、きっと届く言葉があるはずだと信じたい。五年分の事例に当たり直して思ったのは、この国の文化はもうちょっと成熟しているかと思っていたけど、そうでもないな、ということである。(p333)
小泉純一郎に代表される政治家の失言から始まり、マークス寿子や川口マーン恵美などの言説批判は、小気味よい。三浦朱門・曽野綾子夫妻は当然だが、村上龍や三浦雅士や大江健三郎までが対象になっている。さらに、村上春樹の『海辺のカフカ』の作品内の会話内容を文脈がらみでFC的に検閲している。ここまでくると、斎藤さん、テクハラは分かるけれど、フィクションは対象外じゃないのですか、と言いたくもなる。
「女の涙には勝てん」問題、「女は家にいろ」問題、「女は女らしく」問題、「男はスケベだ」問題、「女だからこそ」問題、「女に政治はわからん」問題、「女はだまっとれ」問題、と読み進めてきて、はて、ここまで細部にこだわると、かえって窮屈になるのではないかと、ついつい心配したくなる。けれども、公的な場所でのFCであって、私的・内面まで規制するつもりはないといいながら、フィクションまで検閲するのは行き過ぎではあるまいかというのが、率直な感想なのだ。
男女の区別や差別を意識せず人間として接することによって、斎藤さんのFCをクリアできるのかも知れない。とすれば、私としては、複雑な心境である。
にもかかわらず、斎藤美奈子を評価するのは、誰も指摘してこなかった男性優位社会・男性原理を価値転倒している点にあると思うからで、『物は言いよう』は、斎藤さんが真骨頂を発揮している批評であるが故に、次なる対象分野が楽しみとなる。
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