車谷長吉

愚か者―畸篇小説集

愚か者―畸篇小説集


最近、コンスタントに新刊書を上梓している。寡作であった私小説作家として、好調なのだろうか。平凡社新書として『反時代的毒虫』を、また、角川書店から『愚か者 畸篇小説集』をと快調に出版されている。『反時代的毒虫』はネット注文しているが、未着。『愚か者』の中の多くは、既刊の五冊に収録されている短編で、単行本初収録は、五編であった。車谷的な本音露出の世界である。


再録ではあるが、「ぬけがら」から北川氏のことば、

勤め人は毎日が徒労で、彼らの親分も決して安閑とした日々を過ごせるわけでもなく、商取引は欺き騙すことと大同小異で、金儲けも煎じ詰めれば犯罪の一種であることに変わりないでしょう。勤勉という似非倫理、真理という偽求道、愛というまやかし。それにしても煮ても焼いても喰えないのが、知識人という人種です。(p91)


車谷長吉の面目躍如たる表現である。


贋世捨人

贋世捨人


しかし、『贋世捨人』が『赤目四十八滝心中未遂』と一部重複するような自伝的作品であり、いささか期待はずれであったことは否めない。某小出版社に勤務していたとき、大江健三郎に原稿依頼をしたときのこと。

大江氏が電話口に出た。用件を述べると、
「ぼ、ぼ、僕は新潮社と講談社と、ぶ、ぶ、文藝春秋岩波書店。それから朝日新聞社以外には、げ、げ、げ、原稿を書きません。」と言うた。(p97)


いかにも大江氏がいいそうな言葉である。が、この種の暴露趣味はあまり感心しない。


■補記(2004年10月12日)

『反時代的毒虫』を、12日に入手した。内容は、対談集であり、第一部は、故人三人との対話で、江藤淳白洲正子水上勉が相手。第二部以下は、中村うさぎ河野多恵子奥本大三郎、そして最後は「嫁はん」の高橋順子さん。これなら、納得です。


反時代的毒虫 (平凡社新書)

反時代的毒虫 (平凡社新書)