チルソクの夏


チルソクの夏 特別版 [DVD]

チルソクの夏 特別版 [DVD]


佐々部清監督作品『チルソクの夏』(2003)を見る。映画を観て泣くというようなことはほんとんどない。最近話題の『世界の中心で、愛をさけぶ』でも、泣くことはなかった。しかし、『チルソクの夏』には何回か泣かされた。


1977年から1978年の下関と釜山が舞台。下関にある長府高校の陸上部の女子生徒4名は、毎日練習に励んでいる。近々、開催される関釜親善陸上大会が、77年7月7日に釜山で開催される。その大会に向けて練習しているのは、走り高跳びの郁子、800mの真理、走り幅跳びの巴、槍投げの玲子、仲良しの四人組だ。真理には、あこがれの男子生徒がいて、彼とステディな仲に早くなりたいと思っている。ほかの三人は、特別な彼もなく、ふつうの女の子ち。


釜山で開催された親善陸上大会で、郁子は韓国の安くんと親しくなる。大会の夜、長府高校の生徒の宿舎に、安くんが、まるで、ジュリエットをたずねるロミオのごとくやってくる。郁子と安くんは、その後も、文通で交流を深める。ところが、70年代当時は、韓国は戒厳令の時代であり、日本人の大人たちの朝鮮人への偏見が大きく、郁子も父親に交際を咎められる。また、安くんの母は、伯母さんが、日本人に殺されたことを理由に、郁子との交際をやめて、ソウル大学への進学に集中するよう諭される。


やがて、1978年下関で大会が開催される。名簿に安くんの名前がない。けれども、安くんは釜山の選手群に参加していた。友人たちのお膳立てで、郁子と安くんのデートが始まる。節度あるが、お互いの気持ちは、眼の表情にあらわれている。大会が終わり、別離のときがくる。


26年後、10年ぶりに再開した親善大会にもどる。冒頭のシーンが、その大会で、郁子が采配を振るっているところから、この映画は始まっていた。現在がモノクロで、過去がカラーは、『初恋のきた道』と同じスタイル。


この時代は、歌謡曲が元気であった。ピンクレディの「カルメン’77」は、歓迎の懇親会で四人組が振り付けつきで唄う。流しの父親は、『津軽海峡冬景色』を唄い、イルカの「なごり雪」が安くんによって唄われる。


現在の「冬ソナ」ブームからは考えられない、日韓の関係が背景にあり、二人の初恋は、切なく成就は無理なことは、自明であるがゆえに、余計に哀しい。


時代背景を巧みに取り上げながら、雰囲気をうまく出しているし、純愛ものの定番を押さえて、なおかつ、政治・社会状況まで捉えている。『世界の中心・・・』の狭さとは、次元が異なる。素朴であり、凛とした輝きのある優れた映画だ。助監督を10年以上務めて、2作目にして佐々部監督は、良い作品を撮ったことは十分評価されていい。


佐々部清監督作品

半落ち [DVD]

半落ち [DVD]