イオセリアーニ


イオセリアーニに乾杯!

イオセリアーニに乾杯!


このところ、オンライン書店での購入が多く、新刊書店に久々に足を運ぶ。5冊購入したが、その内、映画関係本『イオセリアーニに乾杯!』(エスクァイア)が予想外の収穫であった。


オタール・イオセリアーニ(1934〜)は、旧ソ連グルジア共和国出身の映画作家。昨年、『月曜日に乾杯!』(2002、仏・伊)を観たときに、実にいい味を持つ監督という印象を受けた。きわめて地味な作品だが、地方の工場に勤める中年男性ヴァンサンとその家族の日常を、素朴なユーモアと、しみじみほのぼのとした描写に心打たれた。フランス映画の先入観で見ていたが、イオセリアーニのソ連邦時代の作品は、ほとんど上映禁止、1979年パリに移住して、本格的に活動を開始した。新たなる作家の発見は嬉しいものだ。しかし、イオセリアーニはヨーロッパでは絶大な人気と評価を受けている著名な映画監督であったのだ。


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月曜日に乾杯!』では、ヴァンサンは判で押したように毎日、工場へ通っている。朝早くおきて、車で駅まで通い、通勤電車に乗り換える。禁煙車であり、職場も禁煙が徹底されている。このあたりの描写が、淡々としていてユーモアがあり、いかにも、日常に疲れた中年男性の心情を見事に捉えている。無愛想な妻、子供たちは自分の世界を持ち、くわえタバコ、オープンカーで買い物に行く祖母。だれもが、一家の主人であるヴァンサンに関心を示さない。


ある日、工場へ出勤する途中、ヴァンサンは家出し街に独居する老父に会い、「世界に見聞を広める必要がある」と、お金を出して貰う。そのお金を持って、ヴァンサンは、水の都ヴェネチアへ行く。列車のなかで、ワインをラッパ飲みする。その前の座席には、読書中の若い女性がいて、唖然とした表情で彼をながめる。このシーンも出色である。ヴェネチアで知り合った友人とピクニックに行ったり、ヴェネチアの光景が一望できる屋根に案内してもらったり、日常からの逃避生活を楽しむ。しかし、家出して絵葉書を家族に送っても、妻は見ずに破り捨てる。家族の生活ぶりはまったく変化してない。父の不在も、家族にとって事件ですらない。


ヴェネチアの友人が、自分が勤める工場へ誘うが、ヴァンサンは帰宅することを選ぶ。ある日突然、帰宅しても、家族たちは驚きもせず、彼を迎える。翌日、ヴァンサンの出勤時に、妻が襟元にマフラーを巻いてあげ、キスをする。ヴァンサンの不在が、少しだけ、妻に影響を与えたようだ。また、凡庸な一日が始まる。『月曜日に乾杯!』は、そんな映画だった。


『イオセリアーニに乾杯!』は、映画作家のフィルモグラフィの紹介や、イオセリアーニの多彩な才能を窺うことができる。渋谷の「シネ・アミューズ」で、6本の長編作品のレトロスペクティヴがあったようだ。いずれ、彼の作品を観ることになるだろう。


同じグルジア生まれで、上映禁止の被害を受けたパラジャーノフを発見した時のような新鮮な驚きがある。新人ではなく、一定の評価を得ている監督を遅ればせながら、知ることは、映画市場がハリウッド中心に動いていることの証明でもある。


イオセリアーニの『四月』(1962)、『歌うつぐみがおりました』(1970)、『蝶採り』(1992)、『群盗、第七章』(1996)、『素敵な歌と舟はゆく』(1999)の5本を観る楽しみができた。


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