エレファント


エレファント デラックス版 [DVD]

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2003年度カンヌ・パルムドール、監督賞受賞作ガス・ヴァン・サント『エレファント』。1999年4月20日ヒトラーの誕生日に、コロラド州コロンバイン高校で起きた銃乱射事件。マイケル・ムーア『ボーリング・フォア・コロンバイン』で知られた衝撃的な出来事をどのように映画化(ドラマ化)しているかが注目された。マイケル・ムーアのようなメッセージ性は一切出ていない。


初秋のオレゴン州のある高校が舞台。普通の高校生たちを自然体で捉えたキャメラは、長回しで、彼らの背中を追って行く。グラウンド、体育館、教室、食堂、図書館など。登場する高校生は、全員が素人で演技経験もなく、もちろん、キャメラへの意識はあるはずだが、平凡な日常のよくある光景として、観る者に特別な解釈を強制しない。


クラスでいつものようにいじめられるアレックスと友人のエリックは、インターネットで銃を購入し、届くのを待つ間に、アレックスはピアノで「エリーゼのために」を弾いている。Webで未成年者が銃を購入することができることが異常なのだが、この作品では、それさえも自然に見えてしまう不思議さ。


映画を観ている者には、映画の後半で起きるであろう事件が予測されるだけに、自然さが恐怖に繋がっている。アレックスとエリックが、大きなバッグを抱えて校舎に入るシーンが、中盤に挿入される。目撃したジョンに「地獄・・・」というようなことばを投げかける。


やがて銃声が聞こえる。。。ここからは、誰がどのように行動したので、どこで撃たれたなどと、記述することはできない。むしろ、いったい何故このような事件がおきたのか。銃社会の持つ不条理なのだろうか。悲劇的な、痛ましい事件がおきたことの事実に眼をそむけないこと、すなわち、このフィルムを観ることが、<真実>に少しでも近づくことができる。
いや、そうではない。余計な解釈をしないことに、『エレファント』を観る意義があるといえばいいだろう。


ガス・ヴァン・サントは、少年少女や若者たちを自然に捉えることに卓越している。『マイ・プライベート・アイダホ』(1991)『グッド・ウィル・ハンティング』(1997)を観てきた私たちは、そのことを知っている。脚本の構成や、映画のスタイルとして、『エレファント』がひとつの達成であることだけは確かだ。


マイ・プライベート・アイダホ [DVD]

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グッド・ウィル・ハンティング [DVD]

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