ちょっと本気な千夜千冊 虎の巻


松岡正剛『千夜千冊(全8冊)』(求龍堂、2006)は、web版「松岡正剛の千夜千冊」を、再編集・加筆した大全集であるが、あまりの金額の高さ故敬遠している。いや、それよりも、松岡正剛その人がいまひとつ理解できないのだ。読書の守備範囲の広大さには驚くしかない。著者は、「編集工学」ということばに己を託している。全集版『千夜千冊』を購入・読破することなどとても叶わない。とすれば、最新刊『ちょっと本気な千夜千冊 虎の巻』(求龍堂、2007)*1を読むことが、松岡正剛の世界の一端を伺うことになるといえよう。



読書とは「相互編集」だという松岡氏の見解は首肯できるし、一冊づつの読み方は面白いのだが、トータルとしてみると、博覧多識・博覧強記・博識多才の読書家以上でもなければ以下でもない。がしかし、思想家のレベルでみると、どうなのだろう。「異色の編集的読書家」とでも形容すればいいのだろうか。


松岡氏は「編集的世界観」と自らの思考方法を宣言している。『千夜千冊』全集版の見出しをみても、実にタイトルのつけ方がうまい。全体を「セイゴウ宇宙」として編集している。読書の手引き書として『千夜千冊』を紐解く価値は大きい。



私自身のセイゴウ体験は、率直に言って、これまで何度か正剛本を読んできたが、なぜか読了できない。途中で波長が合わなくなるのだ。セイゴウ入門書を見れば、様子が変わるかも知れないと思い『世界と日本の見方』を読む。

17歳のための世界と日本の見方


松岡正剛帝塚山学院大学で「人間と文化」と題した講義を復元・編集したのが、『17歳のための世界と日本の見方』(春秋社、2006)*1であり、まずこちらを読了した。


「関係」と「編集」、「文化感覚距離」などの「ことば」を駆使して、世界の成り立ちの根底にある宗教の問題を解説している。ユダヤ教キリスト教イスラム教などの一神教と、仏教、儒教道教などの多神教を対比しながら、文化が構築されていくことの意味を「編集」の視点からみている。


空海の夢

空海の夢


書かれていることは、神話や物語の成り立ちや、それぞれの宗教の特徴を正剛流の切り口で、明快に説かれるのだが、そこから「知」だの「知識」だの、教養的な意味での、読書のための基本が分かる仕掛けになっている。しかし、そこから思想的な切り口や、「哲学」として抽出できる内容は率直に言って解からないのだ。普通は、著書の2〜3冊を読めば、だいたい思考の方法や思想の核にあたるものの見当がつく。しかし、松岡正剛の場合、読書を重ねても「核」がみえないのだ。読み違いでなければ、意図的に「核」を隠蔽しているとしか思えない。*2


花鳥風月の科学 (中公文庫)

花鳥風月の科学 (中公文庫)


松岡正剛の著書は、私にとって面白いというものではない。つまり刺激を受けないのだ。なるほど、広く多様な知見は得られるのだが、「それが何か?」という印象なのである。一言にしていえば、読書するために「参照する編集者」ということになろうか。


遊行の博物学―主と客の構造

遊行の博物学―主と客の構造

山水思想―もうひとつの日本

山水思想―もうひとつの日本

*1:ISBN:4393332652

*2:松岡正剛の位相から「百科全書派の知識人」と思えば理解できないこともない。