戦争が露出してきた


21世紀には世界平和が実現し、冷戦構造の終焉を経て、地域的な紛争は存続するものの、世界大戦はまず起こり得ないはずだった。21世紀初頭の9.11が、この世紀の不安定さを露出させたのは、周知のとおりだ。


国家が存在感を増幅するのは、戦争によってである。イスラム原理主義が、キリスト教圏へ挑戦してきたのは、単に、中東問題の延長ではない。テロリズムとして、キリスト教圏に脅威を与えている。

更に今年、ソチオリンピックの後、ロシアのプーチン大統領による、ウクライナのクリミア略奪に始まる、EUおよびアメリカへの挑発は、尋常ではない。

第2次世界大戦が、些細な契機から始まったことを想起すべきだろう。ウクライナ東部における親ロシア派による、ウクライナへの揺さぶりには、その根底に対米意識があることをみておくべきことは申すまでもない。

しかし、7月17日のウクライナ上空におけるマレーシヤ航空機が、撃墜されたというニュースが飛び込んできた。状況は、親ロシア派の占領下にある上空であったことなど、また地対空ミサイルの攻撃によるものとすれば、ロシアが武器提供している親ロシア派の誤爆であった可能性がある。ここにきて、プーチン・ロシアの対応に焦点があたっている。


一方殆んど同時期に、中東ではイスラエルパレスチナが、ガザで地上戦に突入している。ホロコーストを経て、ユダヤ民族が国家を持つことができた。第二次大戦後パレスチナ人が居住する地域に、イスラエル国家が建設されたことは、贖罪の意味があったはずだ。ナチスへの戦後処理として善意と贖罪によってもたらされたはずの国家が、居住地を奪われたパレスチナとの、戦後の長期に亘る対立関係が継続・激化し、ガザの一般市民や子供たちの生命が危殆に瀕している。

国家や民族の名において、戦争を積極的に展開していることのアイロニー

アラブの春以来、反政府運動による戦闘が、シリアにおけるアサド大統領の居座りによる内戦の継続的激化は、皮肉なことに隣国イラクに、ISISという組織の結成を促し、バグダッド近くまでまで侵攻している。シーア派のマリキ政権がスンニ派を弾圧していたことが、スンニ派アルカイダ系組織との結合により、イラクが民族や宗派による国家分割の危機を招いている。

さて、ことほどさように、世界的に様々な地域で、国家間による紛争。民族対立による紛争、宗教対立による紛争など、ほとんど第三次世界大戦の前兆の様相を呈している。

問題は日本だ。安倍政権による強権的な、憲法の恣意的解釈による集団的自衛権の行使を可能とする閣議決定が、7月1日に公明党を巻込み強引に決定した。国民は、憲法の恣意的解釈を前提に、自民党に政権を任せたわけではない。

昨年の「特定秘密保護法」の強硬採決に始まる、安倍首相の前のめり姿勢は、ついに、戦後70年間、この国は戦争による死者を出さなかったが、自衛隊が親密な同盟国すなわちアメリカの要請により、海外派兵され、戦争に参加し、戦死するリスクを負うことになってしまった。安倍晋三は、国会審議で、自衛隊の戦死リスクについて一切触れなかった。野党からの質問にまともに回答することを回避しつづけた。「最高責任者は私だ」と自画自賛した安倍首相は、自衛隊の生死に責任を持つのは当然である。

かつて民主党政権時代の自民党は、政治主導に対して、

憲法は、主権者である国民が政府・国会の権限を制限するための法であるという性格を持ち、その解釈が政治的恣意によって安易に変更されることは、国民主権の基本原則の観点から許されない

とHPに記載していた。この言葉をそのまま安倍政権に対する批判となり得る。「日本国憲法」第十章は「最高法規」として、以下のように記載されている。

第十章 最高法規
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。


今回の安倍政権による、集団的自衛権行使容認は、憲法違反であることは明白であり、自衛隊を軍隊として交戦権を認めるならば、憲法改正によらなければならない。

今、世界的な大戦が起きるかも知れない状況の中で、かかる閣議決定による交戦権容認は、許容されるべきではない。

憲法第9条は、「戦争の放棄」を掲げている。

第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

日本国憲法

日本国憲法


つまり、憲法99条及び9条をみれば、憲法を擁護しなければならない安倍政権の閣議決定は、憲法違反であることは明白だ。

世界の政情不安定にあるなか、日本は安倍独裁政権が、武器輸出三原則をなし崩し的に、崩壊させ、日本製の武器が世界の戦場に出て、殺人にかかわること、つまり「死の商人」として日本企業の戦争への関与を、安倍独裁政権は容認したのだ。戦争が露出するとき、国家が浮上する。敢えて危機を創りだし、戦後70年間、日本は世界の中で、平和国家として構築したイメージを、一瞬にして粉砕したことの罪は、必ず歴史的に問われるであろう。

嗚呼。

読むための日本国憲法 (文春文庫)

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あたらしい憲法のはなし

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