村上春樹を聴く。


村上春樹ほど日本のみならず、広く世界で読まれている作家は、かつての日本にはいなかった。文豪・漱石を凌駕する勢いだ。漱石は同時代に受け入れられ、死後その人気は増幅されている。村上春樹は現代の漱石である、と言っても過言ではあるまい。その村上春樹の作品に引用される音楽に関する本が出版された。


「村上春樹」を聴く。 -ムラカミワールドの旋律-(CD付)

「村上春樹」を聴く。 -ムラカミワールドの旋律-(CD付)


小西慶太『村上春樹を聴く。ムラカミワールドの旋律』(阪急コミュニケーションズ、2007)は、村上作品に頻出する音楽にのみ目をつけ、ディスコグラフィを作成した労作であり、着眼点が面白い。それぞれのアルバムの出典する頁が、文庫本を中心に採録していることも、利用者を想定しての索引の役割を果たしており好感が持てる。


ダンス・ダンス・ダンス』が一番多い。次いで、『ノルウェイの森』『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』となる。


引用されるアーティストは、ビートルズモーツァルト、バッハ、ボブ・ディランビーチ・ボーイズベートーヴェンローリング・ストーンズ、ドアーズ、エルビス・プレスリーデューク・エリントンなど。


ポートレイト・イン・ジャズ

ポートレイト・イン・ジャズ


古典派のバッハ、モーツァルトは当然であろうし、ビートルズローリング・ストーンズボブ・ディランビーチ・ボーイズエルビス・プレスリーとくれば、周知のポピュラー音楽であり、文句のつけようがない。更に、マニアックなアーチストをそっと忍ばせているなど、心憎いではないか。ジャズに詳しい村上春樹は、和田誠の絵を付して出版した『ポートレイト・イン・ジャズ』(新潮社、1997)『ポートレイト・イン・ジャズ2』(新潮社、2001)がある。


ポートレイト・イン・ジャズ〈2〉

ポートレイト・イン・ジャズ〈2〉


本の出版とともに、選曲されたジャズアルバムは、『ポートレイト・イン・ジャズ』CD2枚に収録されている。ドライヴの際のバックミュージックとして、重宝している。



村上春樹を聴く。』には、12曲をギター・ソロ・アレンジにより収録したCDが付録としてついている。「カリフォルニア・ガールズ」「ホワイト・クリスマス」「イパネマの娘」「ノルウェイの森」「ダンス・ダンス・ダンス」「泥棒かささぎ序曲」など。



それにしても、村上春樹作品がいかに多くの音楽を引用しているかがよく分かる。音楽を意識して読むところまで、村上作品を読み込んでいないので、本書は参考になる。もちろん、村上春樹自身が『意味がなければスイングはない』(文藝春秋、2005)を出版していることは改めて、取り上げるまでもないだろう。


意味がなければスイングはない

意味がなければスイングはない


意味がなければスイングはない』と、小説に引用された音楽と重なるのは、シューベルト「ピアノ・ソナタ17番」とスタン・ゲッツブルース・スプリングスティーンルービンシュタインスガシカオプーランク。特に思い入れの深いアーティスト。村上春樹は「あとがき」に書いている。

考えてみれば、書物と音楽は、僕の人生における二つの重要なキーになった。(p.277)

当然のことながら、ゆくゆくは文学か音楽を職業にしたいと希望していたわけだが、結局は音楽を職業にすることになった。(p.278)


そして、村上春樹はご存知のとおり29歳で「作家・村上春樹」となった。