「赤」の誘惑


「赤」の誘惑―フィクション論序説

「赤」の誘惑―フィクション論序説


蓮實重彦『「赤」の誘惑』(新潮社、2007)を入手した。例によって、「赤」と「フィクシン」の出会いは「不意撃ち」によるもので、曖昧な関係が厳密さへと姿を変えて行く蓮實的ディスクールのいつもの恣意性が一貫している。前作『表象の奈落』(青土社、2006)が、25年以上にわたる論考の集積であったことを思えば、『「赤」の誘惑』は、『反=日本語論』(筑摩書房)以来の刺激的な読み物となっていそうな気配が「序章」から推測できる。

読みにくさを惹起することのないようにとの配慮をこめて書かれた言説からなっているという意味で、これは、「歓待の掟」を身にまとった慇懃な書物だとひとまずいうことができる。(p.10)


と著者が書くくらいだから、この人の作品にしては読みやすいのだろう。しかしそんなことより、「映画論」以外の蓮實重彦に求めるのは『フローベール論』をまとめて出版することだ。蓮實重彦の代表作は『監督 小津安二郎』(筑摩書房)だろう。未完の『ジョン・フォード論』がそれに並ぶ。「フィクション論」などに文字どおり「誘惑」されることなく、大著としての肝心の専門分野である『フローベール論』を期待する。


表象の奈落―フィクションと思考の動体視力

表象の奈落―フィクションと思考の動体視力