図書館総合展


12月2日、パシフィコ横浜で開催されていた「図書館総合展」へ行って来た。雄松堂書店主催のフォーラムにて、荒俣宏の講演「発見されたエジプト」を拝聴した。荒俣氏の実家には一冊の本もなく、少年当時にあった貸本屋ではじめて本と出会う。それがマンガ本であり、二度目の本との出会いが洋書であったという。学生時代にナポレオン『エジプト誌』の複製本を眼にして、実物が見たくて天理大学附属図書館まで行った体験が語られる。本への憧れと執念が伝わってくる話だった。


DVD化された『エジプト誌』から、スクリーンに写された図版一枚づつ、荒俣氏が解説を加えて行く。荒俣氏の博識ぶりは尋常ではないことは知っていたつもりだが、この巨大な書物『エジプト誌』のもつ歴史的意味がきわめて大きいことは、「エジプトの発見」が様々な分野、とりわけ芸術に多大な影響を与えたことで証明されている。例えば、モーツァルトのオペラ『魔笛』の舞台装置が、エジプト風背景になっていること。ヨーロッパ建築は、一時期エジプトブームを迎えたわけで、その後もエジプト風芸術がいたるとこに散見される。エジプトのオベリスクは、ローマやパリをはじめ欧州のいたるところに、配置されている。


写真が発明されていないからこそ、図として描かれた「エジプト」は、一種の幻想世界であり同時に現実の模倣でもあった。


雄松堂書店の展示コーナーには、明治大学図書館所蔵の『エジプト誌』初版が展示されていた。超大型本の迫力に圧倒される。「図書館総合展」は、現代という時代を写す鏡である。デジタル化する資料群のなかにあって、ナポレオン『エジプト誌』が突出していたのは申すまでもない。その『エジプト誌』がDVD化され容易に閲覧できることは、何というアイロニー


アラマタ図像館 (5) (小学館文庫)

アラマタ図像館 (5) (小学館文庫)


荒俣宏の『アラマタ図像館5』は、氏が所蔵するナポレオン『エジプト誌』を中心に構成されている。氏が所蔵していたときは、自宅に置くスペースがなく、平凡社の社屋に置いて貰い、のちに慶応大学図書館に寄贈したと述べていた。物理的に個人が所蔵することが困難な書物にあこがれ、購入したものの、自宅の書斎に収まらない大型本が22冊。いかにも、荒俣氏の挿話にふさわしい。


なお、ナポレオン『エジプト誌』には、こんな本も出版されている。

ナポレオン エジプト誌 完全版 (ニュークロッツ・シリーズ)

ナポレオン エジプト誌 完全版 (ニュークロッツ・シリーズ)


書物のデジタル化は、入手困難な『エジプト誌』のような稀覯本こそ対象とされるべきで、簡単に読むことができる本を、あえてE-Bookにする必要があるのだろうか。以前に触れたが大学等研究機関が刊行する『紀要』などの研究成果は、無料でWeb上に公開すべきであり、自然科学系の電子ジャーナルは、一刻を争う世界なのだから電子化は当然の成り行きであり、研究上の必然性がある。けれども、科学の進歩と精神は平行しないという小林秀雄の危機感は、今こそ実感として切実であり、ギリシア哲学以来、精神が進歩したとはとても思えない。科学の進歩と精神の荒廃が平行しているのではないかとさえ思えてくるのだ。「図書館総合展」を見てきて、そんなことを感じるのは「世間の常識」に反するのだろうか。


荒俣宏との出会いは、『理科系の文学誌』であった。


理科系の文学誌

理科系の文学誌


そして、荒俣宏の集大成は、平凡社の『世界大博物図鑑』全五巻別巻2冊であろう。


蟲類 (1) (世界大博物図鑑)

蟲類 (1) (世界大博物図鑑)