正しい保健体育


朝日新聞3月20日(日)の「ベストセラー快読」で、みうらじゅん『正しい保健体育』(よりみちパン!セ理論社)がとりあげられていた。通常、この紹介文とも書評ともいえる「ベストセラー快読」を読むことで、売れ筋本が分かるわけだが、それ以上、購入して読むケースはきわめて少ない。


みうらじゅんタモリ倶楽部で見掛ける程度であり、みうら氏に対しいて個人的な思い込みなどまったくなかったことをまず、正直に告白しておきたい。従って、彼の著書をこれまで読むことはなかった。しかし、今回の著書には敏感に反応したので、早速入手した。
『正しい保健体育』は、実にまっとうなテクスト=教科書であった。


正しい保健体育 (よりみちパン!セ)

正しい保健体育 (よりみちパン!セ)



第1部「保健体育を学ぶにあたって」は、性教育を「恥ずかしさ」という視点から捉えている。少なくとも、学校で先生から教わることなど絶対ありえない記述であり、中学生にとって必読書である。文部科学省の指定外教科書とすべき内容になっている。これは、本書全体についても言えることだ。


第2部「現代社会と健康」と第3部「生涯を通しての健康」が出色であり、みうらじゅんの「人生論」になっているといえるだろう。

人生でいちばん大事なことは、大切な人を見つけることです。健康など二の次三の次です。(p49)

「愛」の正体は若いうちには絶対わかりません。歌や本や映画でよく見かけるので、そのへんにあるものと思いがちですが、愛というのは、実は「ボランティア」のことなのです。
・・・(中略)・・・
下の世話をするとか、普通ならできないことを「その人のためならばできる」というのが、本当の愛です。(p86)


これは、体験的に、私の両親をみていて、まさしくそのとおりだと感じたことである。父は常に母に対して威圧的だった。子どもの私から見ると、なぜ母はこんな父親と暮らしているのだろうか不思議だった。そのため、私は父との葛藤が強く、父の思想や行動を軽蔑していた。ところが、母が病に倒れたとき、あの権威的で威圧的だった父は、母の下の世話を嫌な顔ひとつみせず、つきっきりで看病したのだった。この時はじめて、母は父に本当に心から愛されていたことを知った。涙が出た。
以後、父親と私の軋轢や葛藤が消え自然と和解した。いまでは、その頑固な父を尊敬しているくらいだ。


まあ、私的なことはさておいても、みうらじゅん、只者ではないことを本書で確信した。
本書でもっとも、ユニークで面白かったのは、83頁のQ&Aだった。


女子だけを体育館に集めて映画を見せていたが、その映画とは、「だいたいゴダールの映画ですね。」と解説するところであり、オシャレな女の子の部屋にはゴダールかアントニオーニの「欲望」のポスターが貼ってあるという。これは卓見だと思う。
女の子は恐い、男子よりはるかに先に進んでいる、いや女性とは恐ろしい存在=尊敬すべき存在であることをみうらじゅん氏に改めて教えられた。


もう一つのQ&Aで、

一般に、人生は体育会系なのか文化系なのかの二択しかなく、体育会系を選んだ人は体が動かなくなっても鍛え続けなくてはなりませんし、文化系の人は、逆に、突然鍛え出したりしてはいけません。いつもやっていないことを人間はしてはいけません。いつもやっていることはいつまでもやり続けなければならない、ということなのです。(p138)


まさしく、健康に関する金言といえる。
もちろん、理論社の「よりみちパン!セ」シリーズは、中学生むけの学校外啓蒙書だが、そして、『正しい保健体育』は、性教育の本ではあるが、それ以上に人生論について書かれた金言・格言・箴言に満ち満ちていることを声高に評価したい。


YA新書 よりみちパン!セ 小熊英二 『日本という国』 も近刊予定