茶の味


茶の味 グッドテイスト・エディション [DVD]

茶の味 グッドテイスト・エディション [DVD]


石井克人の長編第三作『茶の味』(2003)を観る。浅野忠信出演と、予告編の雰囲気で気になっていた作品だ。


都会の近郊でいまだ田舎の風景が残っている自然のなかで、春野家の家族のほのぼの感と、中学生の佐藤貴広君と小学生の坂野真弥の存在感がよろしい。三浦友一の父と手塚理美の母の夫婦関係がすこしばかり危うげであるが、祖父の我修院達也の圧倒的な存在感が、最後まで本作品を引っ張って行く。いわば、この春野家が自然のなかにあるとすれば、家族の人々の頭のなかは、妄想と想像力と不安が、シュールな映像として画面にあらわれるから、作品としてのバランスが欠けており、本筋と関係ない細部が不思議と際立つ、奇妙な味わいを持つ。


シュールレアリスムということばが一人歩きをしている気配があり、この作品なども、アニメという媒介がなければ、とうてい物語として成立し得ない内容だ。片思いの佐藤貴広の頭から電車が去って行くシーンや、坂野真弥には巨大な自分が突然出現するなど、想像力の世界を映像化している故に、その不自然さを許容できるかが、この作品への評価の分かれ目となる。


この作品には、お茶を飲むシーンが多く、必然というより自然にお茶を入れているといった雰囲気なので、しかも、家族の風景があの小津的世界を想起させるという点において、辛うじて映画として成立している。


浅野忠信が、元恋人の中嶋朋子をたずねるシークエンスや、転校生の土屋アンナ(『下妻物語』)と佐藤貴広囲碁をさすシーンなど、極めつけは長いエントツから煙が出る光景を撮り、キャメラが俯瞰すると喪服を着た家族がエントツを見上げている。これらの卓抜な映像によって、『茶の味』を肯定的に捉えたいと思う。


絶えず映し出される青空のショットが多彩で美しく、雲の動きや太陽の光線の按配などに、映像派としての才気が伺える。饒舌で奇抜な発想と自然美のアンバランスを映像化できる巧みさにおいて、『茶の味』は、観るに値する優れた脱=構築的フィルムである。


茶の味』ハワイ国際映画祭グランプリ受賞!
http://www.chanoaji.jp/


石井克人フィルモグラフィ

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