間宮兄弟


江國香織原作の『間宮兄弟』は気になっていたが未読。それが森田芳光によって映画化された。映画のみで語るとすれば、まぎれもなく森田ワールド満開の世界になっている。


間宮兄弟

間宮兄弟


初期の傑作『の・ようなもの』の軽快さと、映像マジック、ク−ルな展開、すべてが初期のフィルムように、森田芳光のアイデアが奔出している。


兄・佐々木蔵之介、弟が塚地武雅。凸凹コンビで実に日常的な細部にこだわりをもつオタク系兄弟。30歳を過ぎても兄弟二人で同居し、子供のように毎日のできごとを反省会と称して話し合う。兄はビールを飲み、弟はコーヒー牛乳を飲む。


兄弟に関わる女性が、弟が校務員として勤務する小学校の先生・常盤貴子レンタルビデオ店員の沢尻エリカ、妹の北川景子。兄の職場の先輩・高嶋政宏の妻・戸田菜穂


(ハル) [DVD]

(ハル) [DVD]


何より常盤貴子のコメディエンヌ的先生が秀逸で、眼鏡をかけたインテリ風だが、同僚の先生と恋人関係にあり、問題をかかえている。常盤貴子がちらりと浴衣やスカートをまくる光景など、森田芳光以外に撮ることはできないだろう。もう一人の女性、沢尻エリカは、恋人が大学の野球部の練習に忙しく、実は孤独でもあるが、佐々木蔵之介の誘いには応じない。


そんなこんなで、二人は「カレーパーティ」や「ゆかたパーティ」を自宅で主催するが、恋人を持てるところまで発展しない。完結されている世界の平穏さは、恋愛関係に深くからまないことで成立している。


家族ゲーム [DVD]

家族ゲーム [DVD]


大状況など関係なく、あくまで日常的な細部にこだわること。失恋からの癒しが兄弟同士で終結してしまうことに、オタク兄弟の限界があるなどと言ってはいけない。これは、そういう世界なのだから。間宮兄弟の母親を、あの中島みゆきが演じている、これは見事なキャスティングだった。

かもめ食堂


かもめ食堂

かもめ食堂


バーバー吉野』と『恋は五七五!』の荻上直子が、群ようこに原作を依頼した『カモメ食堂』は、アキ・カウリスマキのような素敵な作品に作り上げられている。フィンランド人は、無口であるというイメージが強いけれど、「かもめ食堂」を自ら経営する小林聡美は結構おしゃべりであり、片桐はいりが加わると、面白おかしい会話がとびかう。さらに、もたいまさこの不思議な存在は、この映画にフィンランドという異国で暮す元気な女性たちを観ていると、心地よい。



この映画には日本人男性が一人も登場しない。なにも日本に住むことに拘る必要などない。女性同士の共同体的海外生活があってもいい。そんな良い気分にさせてくれるフィルムだ。ヘルシンキの風景が美しく、小林聡美たち3人の女性の存在は、異国の地にも違和感などない。



■オタク兄弟同士の世界と、海外で生活する女性たちは、現代日本のある世代の生き方としては、パラレルな関係にあることを、この2本の映画が示している。

今村昌平・黒木和雄


遅ればせながら、今村昌平(1926.9.15. - 2006.5.30)と黒木和雄(1930.11.10 - 2006.4.12 )両氏に哀悼の意を捧げたい。きわめて個性の強い優れた監督の不在が、日本映画界の大きな空白にならないことを祈りたい。今村昌平監督、黒木和雄監督には、個人的に思い入れがあり、あらためて言及したい。合掌。