吉本隆明を追悼する


2012年3月16日未明、戦後最大の「知の巨人」と言われる吉本隆明の訃報が入る。吉本隆明は死なない人だと思っていた。吉本氏を知ったのは、あの名著『共同幻想論』(河出書房新社,1968)であり、1970年第15版が手元にある。


改訂新版 共同幻想論 (角川ソフィア文庫)

改訂新版 共同幻想論 (角川ソフィア文庫)


この時期、勁草書房から『吉本隆明全著作集・全15巻』が刊行中であり、第4巻所収の「マチウ書試論」、第12巻『思想家論』の「丸山眞男論」「カール・マルクス」、第13巻『政治思想評論集』の「転向論」ほか、そして第9巻『島尾敏雄』(1975)など多数の思想論・評論や文学論を読んだ。


マチウ書試論・転向論 (講談社文芸文庫)

マチウ書試論・転向論 (講談社文芸文庫)

カール・マルクス (光文社文庫)

カール・マルクス (光文社文庫)


その後、単行本として「日本詩人選」の一冊、『源実朝』(筑摩書房,1971)、『書物の解体学』(中央公論社, 1975)『最後の親鸞』(春秋社, 1981)における「往相」と「還相」の提示が記憶に残る。


源実朝 (1971年) (日本詩人選〈12〉)

源実朝 (1971年) (日本詩人選〈12〉)

書物の解体学 (講談社文芸文庫)

書物の解体学 (講談社文芸文庫)

最後の親鸞 (ちくま学芸文庫)

最後の親鸞 (ちくま学芸文庫)



最近の本として『夏目漱石を読む』(筑摩書房, 2002)が、吉本氏が評価していた小林秀雄賞(第2回)を受賞している。


夏目漱石を読む (ちくま文庫)

夏目漱石を読む (ちくま文庫)


「大衆の原像」が、80年代以降、自立の思想的拠点として機能しなくなったと思い、しばらく吉本氏に距離を置いていた。

近年は、糸井重里のリスペクトによる、講演集のCD化、『吉本隆明五十度の講演』(東京糸井重里事務所,2008)があり、2012年最後の著書『吉本隆明が語る親鸞』(東京糸井重里事務所,2012.1)が 刊行された。これは入手した。


吉本隆明の声と言葉。〜その講演を立ち聞きする74分〜 (Hobonichi books)

吉本隆明の声と言葉。〜その講演を立ち聞きする74分〜 (Hobonichi books)

吉本隆明が語る親鸞

吉本隆明が語る親鸞


吉本隆明を、思想的に評価することは、私には出来ない。70年代に氏に遭遇し、「幻想」「対幻想」「共同幻想*1の考え方、更に、親鸞における「還相」としての在り方に感銘を受けた。


勁草書房の『吉本隆明全著作集』が、続篇の途中で何故か中止になった。大和書房からの『吉本隆明全集撰・全7巻』は、既刊分を購読した。

膨大な著作があり、その内、入手・読了した書物は多くない。どちらかと言えば、初期・中期の著作を読んできたことになる。

時代とともに、吉本隆明を追ってきた訳ではないが、氏の存在は常に大きな拠り所となっていたことは確かだ。しかし、いまはこれだけしか書けない。

吉本隆明氏のご冥福をお祈りしたい。合掌。


吉本隆明×吉本ばなな

吉本隆明×吉本ばなな

柳田国男論・丸山真男論 (ちくま学芸文庫)

柳田国男論・丸山真男論 (ちくま学芸文庫)

芸術的抵抗と挫折 (こぶし文庫 52 戦後日本思想の原点)

芸術的抵抗と挫折 (こぶし文庫 52 戦後日本思想の原点)

吉本隆明詩全集〈5〉定本詩集 1946‐1968

吉本隆明詩全集〈5〉定本詩集 1946‐1968

定本 言語にとって美とはなにか〈1〉 (角川ソフィア文庫)

定本 言語にとって美とはなにか〈1〉 (角川ソフィア文庫)

心的現象論本論

心的現象論本論

*1:吉本隆明氏固有の「キーワード」として「共同幻想」「対幻想」「自己幻想」のほか、「自立の思想」「大衆の原像」「関係の絶対性」(マチウ書試論)「往相/還相」(親鸞論)「自己表出/指示表出」(言語にとって美とは何か)「アフリカ的段階」など独特の言葉=用法で表現されている。