映画ベストテン2011
今年は、88本の中から選出した。対象は「キネマ旬報2011ベストテン選出用リスト」とした。外国映画、日本映画とも、原発関連のドキュメンタリーがベスト1となった。
【外国映画】
1.100,000年後の安全(マイケル・マドセン)
2.コンテイジョン(スティーブン・ソダバーグ)
3.トゥルー・グリット(コーエン兄弟)
4.アレクサンドリア(アレハンドロ・アメナーバル)
5.未来を生きる君たちへ(スザンネ・ビア)
6.トスカーナの贋作(アッバス・キアロスタミ)
7.ゴーストライター(ロマン・ポランスキー)
8.ブラック・スワン(ダーレン・アロノフスキー)
9.シリアスマン(コーエン兄弟)
10.英国王のスピーチ(トム・フーパー)
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○特別編:ヒアアフター(クリント・イーストウッド)
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番外
○ゴダール・ソシアリズム(ジャン=リュック・ゴダール)
○ソーシャル・ネットワーク(デイヴィッド・フィンチャー)
○ツリー・オブ・ライフ(テレンス・マリック)
○しあわせの雨傘(フランソワ・オゾン)
○エッセンシャル・キリング(イェジー・スコリモフスキー)
○宇宙人ポール(グレッグ・モットーラ)
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マイケル・マドセンによる『100,000年後の安全』は、放射性廃棄物問題に焦点を当てたこと、しかも映像的にも、観るものを圧倒させる美しさを印象づける。これはイデオロギーの問題ではない。ジャン=ピエール・メルヴィルとミケランジェロ・アントニオーニのフィルムに影響を受けたと、マドセンは表明している。10万年後を想定した「オンカロ」を廃棄物処理のため地下深く作るという、まるでSF映画のような映像だった。問題の深刻さを淡々とした描写に徹した傑作である。
【日本映画】
1.ミツバチの羽音と地球の回転(鎌仲ひとみ)
2.一枚のハガキ(新藤兼人)
3.ショージとタカオ(井出洋子)
4.大鹿村騒動記(阪本順治)
5.八日目の蝉(成島出)
6.ステキな金縛り(三谷幸喜)
7.はやぶさ(堤幸彦)
8.ダンシング・チャプリン(周防正行)
9.冷たい熱帯魚(園子温)
10.奇跡(是枝裕和)
番外
○Peaceピース(想田和弘)
○東京公園(青山真治)
日本映画は、山口県上関町に建設予定の原発に反対を続ける祝島の人々と、持続可能な自然エネルギーに活路を見出すスウェーデンの人々を対比しながら取材を重ねた、鎌仲ひとみ『ミツバチの羽音と地球の回転』が他のフィクションを圧した。
新藤兼人『一枚のハガキ』は、新藤氏自身の戦争体験に基づいている。掃除部隊として召集された100人は、くじ引きにより、戦地へ出陣、あるいは輸送船に乗り、そのほとんどが戦死した。わずか6名がクジ引きで生き残った。脚本家・新藤兼人の真骨頂が示された99歳の作品。ラストの水を天秤で運ぶシーンは自身の『裸の島』(1960)を想起させる。本作が、ドキュメンタリーを除くフィルムとしてはベスト1になる。
映画は二十世紀の芸術である。二十一世紀も十年が過ぎようとしているが、前世紀100年の成果を超える作品はきわめて少ない。リメイクや3Dなどでは、フィルムに刻印される印象は薄い。フィルムよりビデオ撮影を好む監督もいる。一秒間24コマ、これがフィルムとしての映画の魅力だ。それも過去の遺産となりつつある。
ベストテンの選出が一年単位であることに意味があるとは思えないが、習慣から選出してしまった。ネットやゲームの進化など娯楽の多様化により、映画への関心が相対的に低下した。総合芸術としての映画は、クラシック音楽の比喩で言えば、製作(作曲)から旧作上映(演奏)の時代になっている。
旧作上映といえば、今年はヌーヴェル・ヴァーグの代表作家クロード・シャブロルの3本が上映された。エリック・ロメールと共著で「ヒッチコック論」を執筆したシャブロルは、映像の余韻が続く稀有な作家であることが、遅れての公開によって証明された。
○引き裂かれた女(クロード・シャブロル)
○甘い罠(クロード・シャブロル)
○悪の華(クロード・シャブロル)
映画の修復(デジタルリマスター版)こそが、21世紀映画の課題であろう。日本映画でいえば、小津安二郎、溝口健二、黒澤明などの作品を超えることは難しく、例えば日活100周年記念行事は、新作映画の製作ではなく、川島雄三『幕末太陽傳デジタル修復版』の公開になっていることに、皮肉にも象徴される。
日活であれば、川島雄三作品全てが<デジタル修復版>とすべきであろうし、浦山桐郎・鈴木清順など多くの監督作品のデジタル修復が期待される。それは、松竹(清水宏・木下恵介等)、大映(増村保造等)、東映(内田吐夢・加藤泰等)、東宝(成瀬巳喜男・市川崑等)にかぎらず、独立プロ作品も同様である。
ことほどさように、映画とは20世紀の産物なのであり、デジタルアーカイブより、フィルム一本一本づつの修復・保存*1が要請される。
書物の保存に関しては長い歴史を持つが、映画の保存・修復などの作業はこれからの大きな課題となっている。
【追記】(12月30日)
追悼・森田芳光
今年、映画人の訃報が多かった。とりわけ年末、森田芳光の突然の死に驚いた。『の・ようなもの』(1981)以来、公開される度にリアルタイムで観てきた映画監督の死は、哀しい。昨年『武士の家計簿』(2010)をベストテンにあげている。森田氏を追悼する意味で、とりあえずのベスト5を挙げておきたい。まずは、遺作『僕達急行 A列車で行こう』(2012公開)を早くみたい。合掌。
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