犬ヶ島

ウェス・アンダーソン監督、パペットアニメーション犬ヶ島』(Isle of Dogs,2018)には、映画作りの巧さが随処に見られ、感動アニメの部類に入る。ベルリン銀熊賞受賞作品。



コンピュータグラフィックのアニメが多い中で、手作り人形によるコマ撮り映画は、貴重な挑戦でもある。一コマづつ撮影のため、制作に4年を費やしている。本編には、情報量が多く単純なストーリに複雑なメッセージやオマージュが混入されている。まず、黒澤明の50〜60年代の映画による日本をイメージした舞台設定。今から20年後の未来を描くというスタイル。

メガ崎市では、小林市長が独裁制権力を有し、「ドッグ病」という奇病のためイヌを隔離する。その犬ヶ島へ、少年アタリが愛犬「スポッツ」を探しにやってくる。5匹のイヌが少年に協力することになる。
一方、「ドッグ病」の治療薬を開発していた渡辺教授が軟禁される。
メガ崎高等学校の交換留学生トレイシー・ウォーカーの小林市長排斥運動を起こし、治療薬ワクチンを所有するオノ・ヨーコからワクチンを受取り、犬ヶ島のアタリ少年やイヌ達を応援する。

何よりアニメーションの原型とも形容される懐かしさと、黒澤明的正義が貫徹していることだろう。

ウェス・アンダーソンは、『ザ・ロイヤル・テンネンバウムズ』(2001)、『ライフ・アクアティック』(2004)、『ダージリン急行』(2007)、『ファンタスティックMr.FOX』(2009)、『ムーンライズ・キングダム』(2012)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)と、傑作、佳作を作り続けている。



『ザ・ロイヤル・テンネンバウムズ』は、ジーン・ハックマンを家長とする家族の物語。

ライフ・アクアティック』は、ビル・マーレイの海洋冒険家チームによる水中撮影。

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ダージリン急行』、舞台はインド北西部を走るダージリン急行オーウェンウイルソンエイドリアン・ブロディジェイソン・シュワルツマンの三兄弟によるファンタジー的快作。3人乗りバイクシーンがユーモアを誘う。


ファンタスティックMr.FOX』は、ロアルド・ダール原作を、ストップモーションアニメ。

ムーンライズ・キングダム』は、群像恋愛コメディ。少年・少女の逃避行物語。

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グランド・ブダペスト・ホテル』は、3つの過去と現在が入れ子状態になっているスタイリシュな映像。レイフ・ファインズを伝説のコンシェルジェとし、多彩な人物が交錯する、ウェス・アンダーソンの最高傑作。


ウェス・アンダーソン作品には、「アンダーソン・ファミリー」とも言うべきキャスティングが配されている。

オーウェンウイルソンエイドリアン・ブロディエドワード・ノートンボブ・バラバンビル・マーレイジェフ・ゴールドブラムフランシス・マクドーマンド、 F・マーリー・エイブラハム、ティルダ・スウィントンアンジェリカ・ヒューストンハーヴェイ・カイテル、カーラ・ヘイワードなど。

今回の『犬ヶ島』には、「アンダーソン・ファミリー」がほぼ総出演しており、他にもスカーレット・ヨハンソンオノ・ヨーコグレタ・ガーウィグ渡辺謙夏木マリなど豪華俳優が協力している。ちなみに、常連のオーウェンウイルソンは制作に回っている。


参考のために、『犬ヶ島』公式HPより,「ストーリー」を以下に引用する。

今から20年後の日本。メガ崎市ではドッグ病が蔓延し、人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を“犬ヶ島
に追放すると宣言する。数か月後、犬ヶ島では、怒りと悲しみと空腹を抱えた犬たちがさまよっていた。その中に、
ひときわ大きな5匹のグループがいる。かつては快適な家の中で飼われていたレックス、22本のドッグフードのCMに
出演したキング、高校野球で最強チームのマスコットだったボス、健康管理に気を使ってくれる飼い主の愛犬だった
デュークだ。そんな元ペットの4匹に、強く生きろと喝を入れるのが、ノラ犬だったチーフだ。ある時、一人の少年が小型飛行機で島に降り立つ。彼の名はアタリ、護衛犬だったスポッツを捜しに来た小林市長の養子だ。事故で両親を亡くしてひとりぼっちになり、遠縁の小林市長に引き取られた12歳のアタリにとって、スポッツだけが心を許せる親友だった。スポッツは鍵のかかったオリから出られずに死んでしまったと思われたが、それは“犬”違いだった。何としてもスポッツを救い出すと決意するアタリに感動したレックスは、伝説の予言犬ジュピターとオラクルを訪ねて、教えを請おうと提案する。一方、メガ崎市では、小林政権を批判し、ドッグ病の治療薬を研究していた渡辺教授が軟禁される。メガ崎高校新聞部のヒロシ編集員と留学生のウォーカーは、背後に潜む陰謀をかぎつけ調査を始める。アタリと5匹は、予言犬の「旅を続けよ」という言葉に従うが、思わぬアクシデントから、アタリとチーフが仲間からはぐれてしまう。少しずつ心を通い合わせ始める一人と一匹に、さらなる冒険が待っていた─。


ウェス・アンダーソンは、雑誌『ユリイカ』で特集されるのは、2014年6月に次いで、『犬ヶ島』が2度目となることを付言しておきたい。


■追加(2018-06−24)
 黒澤明へのオマージュというのは、小林市長が『天国と地獄』の三船敏郎役をイメージしてること、犬たちが揃って並ぶシーンには、『七人の侍』のテーマ音楽を使用していることなどから。
また、アンダーソン監督は、「今作を手掛ける上で、宮崎駿監督作品の静寂と自然の描写に影響を受けた」と告白してる。必見!『犬ヶ島


ウェス・アンダーソン作品関係