みすず読書アンケート2014


みすず書房『みすず』、2014年1月・2月号「読書アンケート特集」を入手した。早速、通読してみる。金森修氏の文章にまず眼を惹かれた。

この場所で、昨年の私は、この国の行く末を私なりに憂慮していた。ただその際、主に念頭にあったのは放射線障害に関する国の施策のお粗末さと冷酷さを巡るものだった。・・・(中略)・・・しかし心配の種はそれだけには留まらないというのが、今の国家の動向なのだ。民主主義の根幹を保障するはずの公正で幅広い情報を、国家機密という名の下に隠蔽する可能性の高い特定特定秘密保護法案のごり押しのような成立、その種の政治的横暴に愚痴をこぼしながらも、決定的な批判や態度表明をなかなかしようとしない一般大衆。いまや一種のシニシズムと諦念が社会空間を覆い始めているような気配さえある。本当に日本は少しおかしくなり始めてはいないか。そして、読書人は、書斎で自らの穏やかで、繊細な精神活動に自足しているだけでは済まないという認識をもつべきではなかろうか。実は、いま私が一番言いたいのはそれである。(p.17)


金森氏が、収穫としてあげているのが、工作舎の2冊である。

アナタシウス・キルヒャー著、菊池賞訳『普遍音楽‐調和と不調和の大いなる術』(工作舎,2013)

ヨハネス・ケプラー著、岸本良彦訳『新天文学』(工作舎,2013)

新天文学

新天文学



アンケート回答者は、そぜぞれ専門分野を持ち、新刊のみならず、旧刊本の紹介もあり、宮地尚子氏は、「みすず読書アンケート特集(毎年のバックナンバー)」を挙げて次のように記している。

ごぞんじ、このアンケート特集。その年の新刊書じゃなくていいところが魅力。形式が決まっていないので、書き手の個性が豊か。(p.24)


回答者の自由な書き方は、単なる新刊書の収穫リストではない。しかし、一方、多くの票を集めた図書も気にかかる。


四方田犬彦ルイス・ブニュエル』(作品社,2013)5票


ルイス・ブニュエル

ルイス・ブニュエル


鈴木一誌による言葉。

映画における政教分離の葛藤を、ひとりの映画作家の軌跡にだどる。シュルレアリスムが物質が発する異言を聞こうとする運動であり、救済不可能がテーマであるなら、ブニュエルと宗教との相克は生涯にわたった。(p.55)


鈴木布美子氏の読みによる紹介文。

『アンダルシアの犬』から『欲望のあいまいな対象』までの全作品が最新の研究成果を踏まえて論じられる。・・・(中略)・・・著者は、観る者に解釈を迫る謎を提示する一方であらゆる解釈を拒絶してしまう「ブニュエルとは何者なのか?」という最大の難問に取り組んでいる。巻末に収められた「日本におけるブニュエル受容」も秀逸。(p.93)


映画作家論では、本格的なルイス・ブニュエル論は日本では始めての試みであり、四方田氏の念願の映画作家論であることは申すまでもない。購入を迷ったが、買うべき本だった。


ヒッチコックや、ウディ・アレンの作家論や紹介本は、数多い。映画史的にみれば、レフ・クレショフやカール・TH.ドライヤーに関する作家論が書かれなければなるまい。まあしかし、これは別に書くべきこと。


根本彰氏は、「2013年は図書館が人口に膾炙することが少なくなかった。」と述べ、次の文献を紹介しながら所見を記載している。(p.25-26)

◎楽園計画編『図書館が街を創る‐「武雄市図書館」という挑戦』(ネコ・パブリッシング,2013)

図書館が街を創る。 「武雄市図書館」という挑戦

図書館が街を創る。 「武雄市図書館」という挑戦

有川浩の小説『図書館戦争』の映画化。

中沢啓治はだしのゲン』の閲覧制限問題。

松井茂記『図書館と表現の自由』(岩波書店,2013)

図書館と表現の自由

図書館と表現の自由

◎シヴァ・ヴァイディアナサン著、久保儀明訳『グーグル化の見えざる代償‐ウェブ・書籍・知識・記憶の変容』(インプレスジャパン,2012)

グーグル化の見えざる代償 ウェブ・書籍・知識・記憶の変容 (インプレス選書)

グーグル化の見えざる代償 ウェブ・書籍・知識・記憶の変容 (インプレス選書)

◎前田勉『江戸の読書会‐会読の思想史』(平凡社,2012)

江戸の読書会 (平凡社選書)

江戸の読書会 (平凡社選書)



最後に丘沢静也氏。丘沢氏は光文社の新訳古典文庫カフカニーチェウィトゲンシュタインなど新訳を、精力的に進めているドイツ文学者。

論理哲学論考 (光文社古典新訳文庫)

論理哲学論考 (光文社古典新訳文庫)


オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』(早川書房,2013)

オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下

オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下

NHKの番組「オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史」が面白かった。ストーン氏の引く補助線でアメリカの文法がくっきり見える。・・・(中略)・・・お上意識の強いフール・ジャパンに必要なのは、エビや牛肉の偽装なんかより、民主主義の偽装(一強による強行採決)のほうがはるかにタチが悪いのだから。(p.110)


とりあえず、以上気になった箇所に留めておく。