寡黙なる巨人
いまここに、「生と死」に関する本質論が記録された書物が二冊ある。多田富雄『寡黙なる巨人』と須原一秀『自死という生き方』の二冊。
- 作者: 多田富雄
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/07/26
- メディア: 単行本
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第七回小林秀雄賞受賞の多田富雄『寡黙なる巨人』(集英社、2007)。68歳のときアメリカ出張中からの帰り、金沢の友人を訪ねていたとき脳梗塞で倒れ、重度の障害を持つ身となる。その経緯を綴ったのが冒頭に置かれた「寡黙なる巨人」であり、死の直前で生還し、その後リハビリで別の人格を獲得(それを「巨人」と著者は表現している)して行く。著者が病を得て生きなおす意思の強さに圧倒される。
- 作者: 須原一秀,浅羽通明
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/01
- メディア: 単行本
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一方、多田氏とは対照的な生き方として須原一秀がいる。『自死という生き方』(双葉社、2008)において「生」を肯定するが故に、65歳にして「死」を自ら選択する姿勢には名状しがたい感銘を受けた。
「死」をどう捉えるかによって、多田氏と須原氏にみられる生き方のどちらに共感するかは、己の生き方にかかわる問題である。甲乙どちらかが良いとかの問題ではなく、あくまで個人個人の生き方の問題である。
私の場合、どちらの生き方を選ぶだろうか。人間にとって「死」はすべての人に平等にやってくる。誰もが、それは今ではない、とやり過ごしているだけだ。多田氏と須原氏は、それぞれ積極的に自らの生き方を決めている。もちろん、多田氏は、ある日突然に襲ってきた脳梗塞を受け入れ、再生するように生き延びている。その脅威的な意思に敬服する。
死はつねに先送りされるが、実は生のなかにある。日々、生のなかに死を実感すること。死を意識しながら生を継続すること。
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/10
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- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/12
- メディア: 文庫
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- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1977/11/01
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豊饒の海 第四巻 天人五衰 (てんにんごすい) (新潮文庫)
- 作者: 三島由紀夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1977/12/02
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自殺した作家、三島由紀夫と伊丹十三の確信犯的な行動を須原氏は肯定するが、ことの真相は分らない。どのような生き方を選ぶかは、個人の問題であり、自分で解決するしかない。そのための参考書が、多田氏と須原氏の極北の二冊である。
- 作者: 「考える人」編集部
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/04/21
- メディア: 単行本
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偶然の導きから「生と死」にかかわる二冊の書物に出会ったわけで、書物は単なる情報ではない。書物から賦与されるものは単なる情報ではなく「賜わりもの」であり、Webに氾濫する情報とは一線を劃するものだ。
書物から得られる知識・知見は、「世界のありよう」と「自己の存在」を探究することにある、といえば極論だろうか。限られた人生、如何に生きるべきかを思考するために、読書は基本的営為となる。書物とは、もちろん全ての書物がそうであるとはいえないけれど、究極のところ「偉大なもの」であると考えたい。
■アルベルト・マングェル『読書の歴史』(柏書房、1999)および『図書館 愛書家の楽園』(白水社、2008)。
- 作者: アルベルトマングェル,Alberto Manguel,原田範行
- 出版社/メーカー: 柏書房
- 発売日: 1999/09/01
- メディア: 単行本
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- 作者: アルベルト・マングェル,野中邦子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2008/09/29
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