みすず2005年読書アンケート


『みすず』2006年1/2月号は、例年どおり「読書アンケート特集」を組んでいる。昨年も『みすず』の「読書アンケート特集」を取り上げた(2005年2月22日)が、今年もぱらぱらと眺めているうちに、ついつい何人がこの本をという関心が抑えきれず集計してみた。昨年は5票を獲得した本が、1冊、4票が2冊だったが、今年は最高が3票で、7冊あった。しかし、私が読んでいたのは、三浦雅士『出生の秘密』一冊のみであった。


三浦雅士『出生の秘密』(講談社、2005) 3票

出生の秘密

出生の秘密

村上陽一郎は、次のようにコメントしている。

三浦雅士『出生の秘密』は大冊。作家たちの出生を、丹念に掘り起こして行く間に、著者の情念は、当初の意図を超えて、奔放な拡がりを見せ、この書自体が一巻の長大な小説(但し、未完の)を読んだ思いを、読者に抱かせる。著者は続編を用意するのではないだろうか。(p.2)

野谷文昭のコメント。

圧倒されるのは、そこで参照される思想や批評の分量とその捌き方で、そこには著者自らの精神史が反映していると言えるだろう。(p.107)


■『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記』(講談社、2005) 3票

ウィトゲンシュタイン 哲学宗教日記

ウィトゲンシュタイン 哲学宗教日記

気になりながらも、購入を見合わせていた。野矢茂樹は、ウィトゲンシュタインが『論考』から『探求』へ転回させた時期の日記として、面白い見方をしている。野矢氏が本書と並べて、川上弘美の『東京日記 卵一個ぶんのお祝い。』に触れて、「不思議にしみじみする。」というコメントで締めているのもいい。

東京日記 卵一個ぶんのお祝い。

東京日記 卵一個ぶんのお祝い。

川上弘美は、よくわからない。幻想がリアリティを持つ。川上弘美の『擬似日記』。


池澤氏の本も気になりながら、買いそびれた。

池澤夏樹『世界文学を読みほどく−スタンダールからピンチョンまで』(新潮社、2005)3票

世界文学を読みほどく (新潮選書)

世界文学を読みほどく (新潮選書)


トクヴィルアメリカのデモクラシー』(岩波文庫、2005) 3票

アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)

アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)

街場のアメリカ論 NTT出版ライブラリーレゾナント017

街場のアメリカ論 NTT出版ライブラリーレゾナント017

内田樹は、『街場のアメリカ論』で、すでにトクヴィルに言及していた。

一九世紀にすでに今日のアメリカの病像を道破したその炯眼に驚嘆、いまの世界に、130年後にまで読み継がれるような水準のアメリカ論を書ける研究者が存在するのだろうか。(p.5)


■宮村治雄『新訂 日本政治思想史 「自由」の観念を軸として』(放送大学教育振興会、2005)*1  3票

田口富久治、原武史、松沢弘陽の三人が挙げていた。政治史・政治思想史分野。丸山眞男以後の思想史として、「自由」の概念を「朱子学」以前に見ようとしている。


日高六郎『戦争のなかで考えたこと−ある家族の物語』(筑摩書房、2005) 3票

戦争のなかで考えたこと ある家族の物語

戦争のなかで考えたこと ある家族の物語

伊佐眞一、鎌田慧、松島征の三氏は、いずれも現代の状況が戦時下に近いことを読み取る。


■二宮宏之『マルク・ブロックを読む』(岩波書店、2005) 3票

マルク・ブロックを読む (岩波セミナーブックス)

マルク・ブロックを読む (岩波セミナーブックス)



ところで、金森修が、いまの思想界を次のように分析することは、然り、きわめて妥当なことと同感する。

全体的に、「流行思想」の顕著な勃興がない分、また、思想家個人の直接的輸入が現代社会の問題構制とはすれ違いを起こしている分、思想界を騒擾状態に陥れたような派手な事件はない年だったと思う。・・・
例えば1980年代の「思想的生産」のスタイルが、全体としてはむしろ反省材料になるという歴史的構図が見えつつある現在、流行に迎合した泡のような言葉は、あまりにうるさく、無意味な「声の嵐」なのだという認識をしっかりと共有すべきときに来ている。(p.13)


小熊英二が、吾妻ひでお失踪日記』を挙げていたり、武藤康史が、「P.G. ウッドハウス選集1」の『ジーヴスの事件簿』と、山田宏一『何が映画を走らせるのか?』をあげ、後者には、「この文章に学びたい。話の飛び方、つなぎ方に学びたい、引用の作法に学びたい。」と絶賛しているのは嬉しいこと。

失踪日記

失踪日記

何が映画を走らせるのか?

何が映画を走らせるのか?


■『みすず』の「読書アンケート特集」は、様々な読み方が可能だ。上記は、あくまで、私的な偏見によるひとつの紹介に過ぎない。直接、現物にあたっていただきたい。予想外の収穫があるかも。。。